【HRカンファレンスレポ】企業が「副業・兼業」「パラレルキャリア」を推進する意義やメリット
2017年5月19日(金)、大手町サンケイプラザで開催された「日本の人事部『HRカンファレンス‐春‐2017』」の特別セッション「新しい働き方が社員のキャリアを豊かに構築する~「2枚目の名刺」の人材育成効果とは~」。このセッションの模様を全3回のレポートでお届けする。
「2枚目の名刺」の人材育成効果がわかる!
「HRカンファレンス‐春‐2017」レポートは全3回
-1- 枠を超えたら世界が変わる~ギャップジャパンが体験した越境学習の効果とは~
-2- 企業が「副業・兼業」「パラレルキャリア」を推進する意義やメリット
-3- パラレルキャリアを推進するための課題と企業の乗り越え方
副業を認めない企業に、本当に必要な人材が残るのか
今や、経済産業省や中小企業庁からもパラレルキャリア推進の流れがみられるほど。とはいえ、実際に企業が社員のパラレルキャリアを許容するにあたっては、「副業・兼業を許可する」という大きな壁がそびえている。企業がこれを乗り越えるにはどうしたらいいのか。廣×志水氏×石山教授によるパネルディスカッションから、人事担当者に向けてヒントが示された。
石山:現実問題として、個人も企業もパラレルキャリアに踏み切れていない状況があります。そんな中で、廣さんや志水さんが副業、兼業、パラレルキャリアを推進する意味はどのようなものでしょうか?
廣:2016年12月に日経新聞に掲載された、「社長100人アンケート」では、副業について「認めない」との回答が8割でした。この社長達は、いわゆる上場の大企業の社長の方々です。
そこで、NPO二枚目の名刺が大企業の社員を対象にした意識調査を行い、「副業を認めない会社に魅力を感じるか」と聞いたところ、副業をやるつもりがない社員でも、37%が「魅力を感じない」と答えました。また、「副業を認めない会社で働き続けたいか」という質問にも、副業をやるつもりがない社員の23%が「働き続けたくない」と答えたんです。
一見少ないように見えますが、1,000人社員がいたら、400人近くが、副業を認めない会社に魅力を感じないと言っているのは、重く受け止める必要があると思います。
廣:また今後、事業サイクルが早まることで、スキルの寿命は短くなり、社員がキャリアをトランジットして学び直しをすることが必要になってきます。そういった流れの中、兼業・副業を禁止した結果、会社に残ってくれるのは、本当に残ってほしい人材でしょうか。社内で学べないことについて、社外で働きながら身につけるという選択肢があると、社員は必ずしも会社を辞める必要はなくなります。
「あなたがもし現在の会社を辞めたとしても、何らかの形で今の会社とつながっていたいと思うか」という質問に、副業を行っている社員で「つながりはもちたくない」と答えた人が21%だったのに対して、副業をやるつもりがない社員で「つながりはもちたくない」と答えた人が41%もいたんです。この結果が人事に対してどういったメッセージを投げかけているのかを考えていただければと思います。
石山:志水さんは副業・兼業にどのような意味があるとお考えですか?
志水:今の働き方改革やダイバーシティの推進といった流れも、日本企業が踊り場にきていて、イノベーションが起こりにくくなっているということですよね。新しいイノベーションは「知と知の組み合わせ」から生まれるもので、毎日同じメンバーと同じ場所で働いていると、新しいアイデアや事業計画などを生み出すのは難しいといわれています。これは経営学的にも明らかにされています。
そういった意味で考えると、社外に出ることは、自分自身にイノベーションを起こしていくということですし、外で得たものを持ち帰って新しいものを生み出すことは、組織の成長や成果に結実していくことにつながります。
社外の人からのフィードバックで行動変革が
石山:実際にサポートプロジェクトに参加された社員の方が組織に持ち帰ったものには、どのようなものがありますか?
志水:発想というよりも行動に変化がありました。人事や経営を通さずに、NPOと協同で古着回収キャンペーンを行う、自分たちで発案した提案を会社に対して行うなど、部門の枠を超えていろいろな人たちを巻き込みながら新しいことを始めるメンバーが出てきたと感じています。さらに、これまでミーティングであまり発言もなく、存在感がなかった人材がどんどん発言をし、周囲にポジティブな影響を与えるようになりました。
石山:参加した社員は、サポートプロジェクトで社外に出て、何を見て、何を経験したことで変わったと思われますか?
この質問には、来場していたギャップジャパンの人事部の岸本しのぶ氏が答えてくれた。
岸本:「まずはやってみる。行動してみたらできた」という経験が自信になっていると感じます。NPOの方をはじめ、知らない社外の人たちと協働できたのだから、社内でもできるだろうと、行動を後押しするきっかけになっているのでしょう。あとは、プロジェクトに参加して、社外の方から「あなたはここが素晴らしい」「ここを改善したほうがいい」と率直なフィードバックを受けたことが、自分の強みや次の行動につながる糧になっているのだと思います。
石山:今まで出会ったことがない人たちだったからこそ、そのフィードバックが有益だったということですね。
人事の本気度とプロジェクト導入効果は比例する
石山:逆に「やったらこんな問題が起きた」「こんなところが難しかった」ということはありますか?
志水:ギャップジャパンの中でも部門によって温度差があり、店舗部門の社員は情熱的で新しいことに対してオープンで自ら手を挙げて挑戦する。一方で本社の一部の社員は少し距離を置いて冷静に見ているという傾向があると感じています。そういった意味で、手を挙げる人に偏りが出てしまうところは否めません。また、最初は、人材育成よりもCSRの一環だと捉えられることを払拭できないという問題もありました。
もうひとつは労働時間の問題ですね。うちの社員は、何事も一生懸命に取り組むので、本業の仕事とプロジェクトの仕事をやるときに、早朝から集まったり、夜遅くまで残っていたり、結果を出そうという想いからのめりこんでつい無理してしまう。少し頑張りすきなのではと上司から心配されていたこともありました。そのような声はメンバーに率直に伝え、どうしたらよいのかアドバイスを行いました。
廣:サポートプロジェクトを企業さんとやり始めて感じる一番の難しさは、前例がなく導入事例がない中で「成果は何なんだ?」と聞かれることですね。そこを突破するには、人事の方の相当な熱量や力が必要です。そこは相当な苦労があり、実現に至らないものも実は少なくありません。
一ついえることは、人事の方が本気であればあるほど、サポートプロジェクトを導入したときの効果は高まっているということ。あとは、一回のプロジェクトには10名程度しか参加できないため、その方たちが職場に戻ると、元に戻ってしまうことがあるということです。そこをどう維持するかが人事の方にとっては課題になっていると感じます。
石山:「他社の導入事例がないと説得できない」となったときは、どうやって突破するんでしょうか。
志水:ギャップジャパンの場合は、私自身が情熱を持っていました。このプロジェクトの意義に共感し、これこそ組織と個人の成長に必要だと強く感じらからです。障害があっても何とか導入したかった。まずは人事のメンバーに意義を説明しました。そして共感してくれた彼らを中心に、現場のリーダーに広めていきました。工夫があるとすれば、「うちの会社が大切にしたいことってこういうことだよね」と当社の理念や文化と関連付けて、「Why(なぜ必要なのか)」を伝えたことでしょうか。そうでないとリーダーと社員は動きませんから。
また、認知を高めるという意味で、石山先生に来ていただいたり、パラレルキャリアに関する本を配ったり、みんなのアンテナをそちらに立ててもらうための工夫をしました。さらに参加した人たちの姿を見せること、彼らの口から体験談を伝えるのが効果的だと感じていたので動画を作成したり、参加メンバーが社内外で話をしたり、彼らのフォロワーをつくっていくような仕組みづくりを行ってきました。その効果もあり、メンバーの部下や仲間に関心が広がっています。また地方の店舗からも「参加してみたい」という声が聞こえてきています。
今年もサポートプロジェクトを始めようと動いていますが、面白いのは2016年に参加した人たちの部下など身近にいて変化を体感した人たちが手を挙げていることです。
石山:一番は参加者の口コミなんですね。もうひとつ深刻なのは、どの研修プログラムにも言えることですが、風化問題です。これにはどのような対策があるんでしょうか?
志水:プロジェクトが終わったあとも、個人的にボランティアでNPOの活動に参加しているメンバーが出ており、社外のセミナーなどで積極的に活動をしている人もいます。自分で風化するかもしれないという恐れがあるのかもしれません。現場に戻るとやはり目の前の業務が忙しくて忘れていく傾向があるので、私たちとしては、メンターやアドバイザーのような役割で、前回参加したメンバーが別の役割で新たなプロジェクトに関わって欲しいと考えています。
続く-3-では、参加した人事担当者とパネリストとの質疑応答の一部を紹介する。越境学習や新しい働き方を自社に取り入れたいが、二の足を踏んでいる人事担当者の背中を押すような答え“答え”がきっとあるだろう。ぜひご覧頂きたい。
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ライター
編集者
カメラマン