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ここdeの活動が、世界を救う ~岡崎市『ここdeやるZone』インタビュー(後編)~

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前編では、『ここdeやるZone』の活動が始まったきっかけや経緯、地元のまちの方々と信頼関係を築くために心がけていることなど伺った。後編では、仕事や家庭とのバランスの取りかたや『ここdeやるZone』の今後についてお聴きしていく。
前編記事はこちら

岡崎市の住民として、岡崎市のファンを増やせているという成果

山中

まち歩き中、晝田さんたちがすれ違う方と頻繁に挨拶していたのが印象的で、『ここやる』がまちに溶け込めているんだなと感じました。ここやるを始めて3年経ちましたが、本業との関わりを含めてどのような成果がありましたか?

直接的に空き店舗を減らせた数字としては3つ。ただ、数字はあまり問題ではなくて、市民との関係性の構築っていうのができているという間接的な効果がものすごく大きいと思います。

晝田

晝田:公務員と市民が一緒になって、『0→0.5』になるような、ちっちゃなスタートをする実践の場が『ここやる』なんです。そのスモールスタートがうまくいったら本業に持ち帰ればいいし、そこで培った人脈やまちとの関係性も本業のまちづくりとか都市計画に活かしていけると考えています。

 

『ここdeやるZONE』代表の晝田さん(右)と副代表の中川さん(左)

山中:晝田さんは資産税課に異動されましたが、そこでも『ここやる』は活用できていますか?

晝田:今の業務ではまだ実感はできていないですね。ただ、資産税課の課員というレイヤーを1枚2枚あげて岡崎市職員、または岡崎市の住民として、シティプロモーションというか岡崎の魅力を発信できているという点で役立っています。

イベントに来てくれた方で、『岡崎から引っ越そうと考えていたけれど、こういった活動を知ってもう少し岡崎にいようと思いました』とか、東京生まれで東京在住の方から『岡崎が第2のふるさとになりました』って言ってくれたりだとか、目に見えない関係人口…、いわば岡崎市のファンを増やせている

市長だけではなく、職員一人ひとりがトップセールスマンになれると思ってやっています。また、アニメとか漫画について語るイベントでは、『ずっとオタクを隠して生きてきましたが、自分をさらけ出しても受け入れてくれる人がいるんだ』と言ってくれたりして。生き方改革というか、市民の居場所づくりにも貢献できていると感じています。

「独身だからできるんでしょ」はそうじゃない、やれる範囲でやればいい

山中:資産税課や公務員という枠組みを超えて、岡崎市の住民として活躍されているということですね。皆さんにお聞きしたいのですが、数多くのイベントを開催している中、プライベートとの両立はどのようにされていますか?

晝田:あくまでも『ここやる』はプライベート(笑)。毎日本業の仕事の後に午前1時まで『ここやる』などで活動していた時は体力的にしんどくて、『何やってるんやろう』と思ったこともありましたが、それでもやっぱり面白い人に会えるので点火されて元気が出ます

中川:やはりしんどいときもありますが、4人で運営しているので誰かやれる人がやるという感じです。誰か1人が背負いこむ必要はないんです。

何度も参加してくれていて、よくわかっているまちの方もいて、4人とも無理ならその方に任せることもあります(笑)。なかなか成果を感じられない中、ひたすらイベントをやり続けた1年目は特に辛いこともありましたが、困難も自分にとって成長できるチャンスだと思っていました。そういう時でも『ここやる』に来たら元気になりました。80歳の人が女子大生と一緒に熱意を持ってまちづくりの話をしている場なんてそう無いですし。

小川:僕は中学生1人と小学生2人の合計3人の子どもがいて、来れるときに来るという感じでやってます。共働きで、平日の夜や休日も習い事の送り迎えだったり色んなことがあるんで、この活動について、ウチの家ではあまりよくは思われていないんです。嫁さんも市職員なんでごまかしが利かない。内緒で来てたらフェイスブックでばれることもあるんで、そういうときは写真NGだったりします。

野澤は奥さんの理解があって、同じように3人子供がいるけど家族総出できたりするんですよね。子供の誕生日会を『ここやる』でやったりとか(笑)。羨ましいといえば羨ましいけど、僕としては切り離された空間で両方の時間があるのもいいかなと思ってます。一番参加率悪くて『やるやる詐欺』なんて言われてますが(笑)

晝田:その分、庁内の調整をやってもらってます。

小川:僕は入職してから18年くらい働いていて、役所の中では若い2人よりも顔があるので、たとえば晝田君に対して誤解を持っている人に「あの子ちょっとめんどくさいけど、いい子だよ」ってフォローすることも意識してやっています。

要は役割分担ですね。元々今の商工労政課は自分から希望して異動したので、何がしか成し遂げる責任がある。そこで若い2人がプライベートでもやれることを作ってくれたので、参加しない手はなかった。

今は、まちの重鎮と、新しいことをやりたいっていう人たちのちょうど中間、ハブになれている状態でどちらにも顔が利く。本業とプライベートを使い分けて、非常にやりやすくなってます。『ここやる』みたいな活動って「独身だからできるんでしょ」って言われがちですが、僕らが入ることで、「そうじゃない、やれる範囲でやればいい」っていうモデルになれていると思います。

1つ1つの積み重ねが、世界を広げる、世界を救う

山中:4人がそれぞれできる範囲で、色んな思惑を持って、うまくバランスをとってるんですね。今後運営に携わるメンバーを増やしていく予定はありますか。

晝田:微妙なところです。

何度も来てくれている若い子もいっぱいいるけれど、4人の中でお互い阿吽の呼吸でやっているようなところを、ちゃんと理解せずにやられてしまうと困る。でもいつまでもこの4人で『ここやる』をやっていくのも良いことではないと思うので、中核メンバーを増やしたいとは思っています。

今の若い子はむちゃくちゃ優秀で、昔の僕みたいに9時17時公務員を目指してくる子もいるけれど、もっと自分のまちを良くしたいんだ、本気で世界を変えたいんだってキラキラした目で入ってくるのに、2、3年経つと死んだような目で前例踏襲のような仕事をしている。そういった子が、いわゆる『公務員』に染まる前にこっち側に染めたいと思っています。

今年から『勝手に新人研修』として、業務後に夜のまち歩きをして歴史とかまちの色々なことを含めて話をします。終わった後に『ここやる』で飲み会をして、『僕らはこんな思いでやってるんで、おもしろいと思った人は一緒にやっていきましょう』って感じで巻き込んでいきたい。

少人数でも、賛同してくれる子らの芽をつぶさなければいい。

そうすると5年後、10年後に僕らが課長とか上司になっている頃には、岡崎はむちゃくちゃ良いまちになっていると思うし、もっと民間との協業とかAIの活用とかドラスティックなこともできるようになっているはず。そのさらに先の良い未来を作ることの第一歩が今年だと思っているので、仲間を増やしたいと考えています。

山中:今後はどのような展開を考えていますか?

晝田:『ここやる』の展開としては4段階。

まずフェーズ1として市役所を飛び出して商店街に入り込み、公務員が主体となって空き店舗を使って色んなことをやる。フェーズ2は、『ここやる』に来てくれた人に『ここやる』を使っていろんなイベントをしてもらう。フェーズ3では、さらに『ここやる』を飛び出して、僕たちが主催とか、来てくれる人が主催ではなくて、一緒にまちが一体となって主催していく。乙川河川敷での『みらおと』や『まちおと』という音楽イベントとかですね。今は大体このフェーズ3の段階です。

フェーズ4としてはこういった活動を横展開していく。康生地区周辺だけではなくて、『ここやる』をモデルケースとして岡崎全体に広げ、もっと面白い市にしていく。さらにこれは他の市町村にもつながる話で、活動を日本全国に広げることを目指しています

山中:晝田さんはさらに『Code for AICHI』の代表などもされていますね。

晝田:『ここやる』を通じて出会った人たちと新しく立ち上げた団体です。『ここやる』はコミュニティ作りの場。そこで出てきた社会課題をテクノロジーで解決していく活動をしています。

岡崎にエンジニアが少ないこともあり、愛知県というレイヤーでのソーシャルビジネスですが、『ここやる』同様、これも全部横展開できる、真似できるんです。僕らのやっているような活動をどんどん真似してもらったら、結果的に日本全国が元気になって面白い国になる

 

『Code for Aichi』のイベントの様子

晝田:日本って今の課題先進国なので、僕らのやったことで、もしかしたら10年後のタイやポルトガルやインドネシアの課題を解決できるかもしれない。僕は世界の社会課題という大きな怪獣を倒すウルトラマンになれると信じているし、なっていきたいと考えています。

山中:岡崎を拠点に行っている活動が、日本全国や、さらには世界の課題解決にもつながるということですね。最後に、晝田さんと中川さんから全国の何かやりたいとウズウズしている公務員の方々にメッセージをお願いします。

晝田:とにかく、「やれ」と(笑)

僕はたまたま公務員で、やりたいことが地域活動で、空き店舗を借りてやっていたら、Code for AICHIの代表だとかちょっとビジネスにも足を踏み込んでいる。でも、それは僕が特別なわけじゃなく、人それぞれ得意なことや、好きなことって絶対あるんで、中途半端でなく1つずつやりきればどこまででもいける。脳科学的には行動を始めれば、どんどんやる気は出てくるんです

ちっちゃなことでもやってみたら、色んな人や団体を巻き込んでいって、逆に巻き込まれてもいって、どんどん発展していくのでどんどん「やれ」と思います。

もちろん、出る杭で打たれるということもあるけれど、本当に応援してくれる人もどこかから現れてくる。そういう運も、行動することで引き寄せてくると本気で信じています。あと中堅からベテランの人たちは、ちゃんとお金を出すことと、若手を応援すること。若手が何かやろうとすると必ず批判されるので、そうした批判から守る壁になってほしいと思います。

 

『ここde やるZONE』のメンバー4人

 

中川:僕らはたまたまプライベートで空き店舗を借りて色々とやっているだけで、あくまで普通のことをやってるんです。形は違うけれどPTAとか町内会とかと同じように、住民としてまちづくりに関わっているだけです。

とはいえ公務員という立場上、白と確信できればやれるけど、グレーではできない部分がある。たとえば空き店舗を借りたり、イベントでお金をもらったりするときに、税法上などでグレーと思われることを、僕らは無料法律相談などで1つ1つ白にしていきました。

そうやって、『できないかもしれない』ことを『やれる』ことに変える方法を考え、小さなステップを積み重ねていくことが大事だと思います。最後はエイヤって覚悟して実行することもありますが(笑)。

公務員っていう職業はこのまま何もしなければ、もはや『=安定』ではないと考えています。

その一方で、実はやりがいや、やれること、ポテンシャルは無限にある。できないと思い込んで、役所の中に閉じこもってしまうのはもったいない。少しずつでもできることを広げていけばいいんだっていうことを知ってもらいたいです。

山中:本日はお忙しい中、ありがとうございました。

 

 

【取材を終えて】

『公務員のパラレルキャリアについて』をテーマに取材していたはずですが、晝田さんたちが『公務員』であることをふと忘れてしまう場面がありました。

まちの方々と気軽に声を掛け合い、交流されている姿や、まちや社会のため自身がやりたい、やるべきことを考えて実際に活動しているというお話が、公務員という立場を感じさせず、『まちの人』として、ごくごく自然だったからだと感じています。

まち歩きに参加されていた田中さんも、「仲間として接してます。特に晝田さんは公務員らしからぬ超攻撃的なアタッカーという印象」と表現。その話を晝田さんにしてみると、『自分は結構守備的な面もありますよ』と意外(?)な反応。まちの人とは、常に相手のことを考えてマメさを重視して関係を構築しており、活動も法令等に触れないよう相談しつつ、公務員としての立場も利用しながら、できることを丁寧に積み重ねているので、「実はかなりバランスを意識しながらやっているんですよ」とのこと。

公と民は相対するもののように考えていましたが、公務員が1人の『住民』として、まちのために何かをしたいという『普通のこと』をやる上で、実はその区分はそれほど必要のないものと気づくことができました。また、活動についても必ずしも特別なことではなく、今できる『普通のこと』を一つ一つ積み重ねていって、さらにできることを増やしていけば、どんどん世界は広がっていくし、その世界をより良くできる

取材を通じ、『ここやる』の皆さんは、こうした信念を体現しながら活動されているように感じました。

 

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ライター

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カメラマン

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山中 崇志
ライター
「憧れ」だけで就職した新聞社を辞め、約2年間の無職期間を経て厚生労働省に勤務。転職活動で苦戦し、悩みぬいたことで「働くとは何か」がライフテーマとなった。2児の父として育児に奮闘するとともに、公務員という枠を超え活動の幅を広げる方法を日々模索し続けている。
島田正樹
編集者
さいたま市役所に勤めながら、NPO法人二枚目の名刺「2枚目の名刺webマガジン」の編集者として活動。その他、地域コミュニティづくりの活動や、公務員のキャリアに関する活動などにも取り組む“公務員ポートフォリオワーカー”。『仕事の楽しさは自分でつくる! 公務員の働き方デザイン』(学陽書房)著者。ブログで日々情報発信中。https://note.com/shimada10708 https://magazine.nimaime.or.jp/shimadamasaki_interview/
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