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パラスポをムーブメントにするために。社会人が取り組むと何が起き、どう変わるのか?

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2月13日に日比谷ミッドタウンBASEQにて実施されたイベント「障害者スポーツ団体基盤強化事業〜Tokyoパラスポーツ・サポートプロジェクト〜事例発表会【ラグビーワールドカップに学ぶ、パラスポーツをブームからムーブメントに!】」。

前編では、ラグビーワールドカップ2019を陰の立役者としても盛り上げた廣瀬俊朗さん・中田宙志さんと、二枚目の名刺代表の廣優樹によるトークセッションの模様をお届けした。後編では、同イベントの第2部・第3部の様子をお届けする。

社会人×パラスポーツからうまれたもの

第2部では、Tokyoパラスポーツ・サポートプロジェクト事例発表。参加したのは、20代から60代までの社会人の男女。それぞれ4〜8名のチームを組み、パラスポーツ計4団体の課題解決に取り組んだ。

約3ヶ月間のプロジェクトで、どのような化学反応や変化がうまれたのだろうか。

日本ハンドサッカー協会東京都支部

登壇者:
団体メンバー:三室秀雄さん
サポートプロジェクトメンバー:渋谷美穂さん
メンバーの本業:人材サービス、研究開発、大学事務職員、メディア関係、IT企業の人事、フリーランスなど。
プロジェクトの目標:日本国内で、ハンドサッカーの選手、審判、ボランティアを増やすこと
プロジェクトの取り組み:
・ロボット「OriHime」を使用した障がい者の試合参加
・プロモーションビデオ、英語版リーフレット、ボランティア募集チラシ制作
・制作物の設置場所開拓、交渉(市役所や社会協議会など)
・ホームページやSNSの充実

ロボットを取り入れたハンドサッカーの実際の試合の様子(団体様スライドより)

三室さん

ハンドサッカーは、一人ひとりが試合で自分の最大限の力を発揮できるように工夫しています。いろんな障がいを持つ人が本気で取り組むことができるスポーツです。今回、プロジェクトメンバーの方が本業で携わっているOriHime(ロボット)を導入していただいたことで、ふだんは入院生活をしている障がいの重い方も試合に参加することができました。

渋谷さん

メンバーの参加のきっかけは「本業以外のことをやりたい」「パラスポーツにかかわりたい」「過去にオリンピックでのボランティア経験があり、パラスポーツを自分ごとにしたい」などです。プロジェクト期間中には体験教室のイベントに3回ほど参加し、まずは「ハンドサッカーを理解する」「協会のみなさんと同じ熱量にする」ことを大切にしました。「プロジェクト期間が終わっても使えるような仕組みを残したい」「せっかくだから新しいことをやりたい」というふたつのテーマを大切にしました。

本業のスキルや経験、強みや感性を使って、メンバーそれぞれのバックグラウンドや強みを活かして、ハンドサッカーの可能性を広げるために取り組みました。結果として体験教室の参加者が増えたり、プロジェクト終了後も使える仕組みや財産を残せた点はすごくよかったです。ハンドサッカーに出会い「ルールに人が合わせるのではなく、人にルールを合わせるという考え方を知って感動し、衝撃を受けました。

本業でできないことにチャレンジしたり、メンバーのバックグラウンドがあったからこそできたことがあったり、一人ではできないことをみんなでできたことが、とても貴重な経験になりました。

メンバーの本業のみならず特技や属性を活かした施策が、ハンドサッカーという競技の可能性を広げた。メンバー自身もパラスポーツに間近で触れたことが、価値観の変化をもたらすきっかけになったのだろう。

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全日本ろう者空手道連盟東京都支部

登壇者:
団体メンバー:山崎由美子さん、海老澤あきつさん
サポートプロジェクトメンバー:鈴木啓仁さん
メンバーの本業:IT系、WEB系、公務員、営業職など。
プロジェクトの目標:「耳が聞こえる人たちを巻き込んで活動を広げたい」という団体の理念実現のため、活動内容をわかりやすく誤解なく伝え広げること
プロジェクトの取り組み:
・団体の活動内容に関するリーフレット制作

私たちは「聞こえない」という障がいがあるため、音声言語が手話であるところが、サポートプロジェクトに参加したみなさんとの大きな違いでした。言語が違うということは、当然 、文化も違います。今回はメールなどの書き言葉を使ってやりとりをしましたが、私たちにとっても、大切なよい経験になったと思います。

山崎さん

リーフレットを作るうえで「耳の聞こえる保護者や、師範のいる道場の先生にアプローチするのが効果的なのでは?」という話になりました。毎週集まり、ホワイトボードがいっぱいになるくらい議論をして、どういう内容を入れるかまとめていきました。

団体さんに言われたことで一番心に残っているのは、デフ空手にかぎらずパラスポーツ全般においてですが「私たちのことを抜いて私たちのことを決めないで」という言葉です。サポートプロジェクトやボランティアなど、パラスポーツへかかわる人たちは、団体さんの熱量に魅せられて「ああやろう」「こうしよう」と、団体さんのためを想って活動すると思います。でもそれがいきすぎてしまうと、団体さんが置き去りになってしまって、かえって距離ができてしまうことにもなるのだと気づかされました。

今回プロジェクトに参加したメンバーからは「デフ空手ってかっこいい」「手話って賑やかだなと思った」「団体さんのあたらしいことにオープンな姿勢が素敵だった」などの声があがりました。

鈴木さん

ろう者と口頭会話者という違いのある両者が手を組み、のぞんだ今回のプロジェクト。メンバーは熱量を持ってすすめつつ、団体側の想いを尊重しながら取り組んだことで互いの違いを認め合い、本業では得られない刺激や気づきを得たようだ。

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東京都知的障がい者陸上競技連盟

登壇者:
団体メンバー:武田信一さん
サポートプロジェクトメンバー:松井洋子さん
メンバーの本業:補聴器販売会社の人事、IT系人事総務(個人事業主)、製薬会社の管理業務・人材育成業務、国家公務員など。
プロジェクトの目標:人手不足、知的障害への社会の理解不足、活動への認知度の低さを改善すること
プロジェクトの取り組み:
・ドーピング冊子、栄養管理の冊子作成
・各競技計測マニュアル作成

武田さん

プロジェクトを通じて、人と人とのつながりを強く感じました。これまで、知的障がいのことを理解している人たちや保護者と組んで活動を続けてきのですが、今回はじめて外部の方が入ってくださった。3ヶ月のプロジェクトで終わりかと思っていたのですが、メンバーのみなさんは消化不良だったらしく(笑)、これからもサポートを続けてくれることになりうれしいです。引き続き、一緒にやっていきたいです。

松井さん

今回、知的障がいの方にはじめてかかわるメンバーもいたので、まずは記録会に記録管理スタッフとして参加することで「誰のために」「なぜ」活動を行うのかという想いを共有しました。選手のパフォーマンス向上や競技運営の円滑な支援のために、ドーピングと栄養管理の冊子を作りました。知的障がいの方は言葉ではなく絵で物事を理解する方もいることから、国際基準にのっとって絵を使用したものにしました。

競技会運営を効率的に運営するためのマニュアルも作成しました。今後は、団体さんに作成物を見ていただいてブラッシュアップしていく予定です。また、記録会にスタッフとして継続して参加するメンバーもいます。今回、団体さんは私たちのような外部のリソースとはじめて協同したということだったのですが、期間終了後も引き続き、プロジェクトを組んで活動していけることになりました。

ご家族に重度の知的障がいがある、ほかのパラスポーツのボランティア参加経験がある、社内でも障がい者へのボランティア活動をしている、パラリンピックのボランティアにも応募しているなど、日頃から障がいのある方との接点があるメンバーも多かったこちらのチーム。団体のことを理解し、なぜこのプロジェクトに取り組むかを共有するところからスタートした。その誠実さや熱量は団体にも伝わっており、さらなる活動の成果が期待される。

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東京都障害者セーリング連盟

登壇者:
団体メンバー:國松慎太郎さん
サポートプロジェクトメンバー:安藤輝人さん
メンバーの本業:損害保険業界の営業、人材業界の新卒採用担当、製薬会社など。
プロジェクトの目標:団体に継続的に参加するメンバー(メインターゲットは20代男性)を増やす
プロジェクトの取り組み:
・SNS運用
・HP改修
・Peatixを使用した集客、管理
・アクセスページ作成
・LINEグループ作成

おもに上記の施策を立案

僕たちの活動目的のひとつは、ヨットを通じた障がい者の社会参加です。障がいを持っていると外に出かけるきっかけがなかなかないので、ヨットをきっかけにして社会とのつながりをたくさん持ってもらうことを目指しています。

もうひとつは、障がい者セーリングの普及活動です。ヨットは誰でも乗ることができ、障がい者も健常者も同じスポーツができます。「楽しいセーリング」をモットーに、いろんな方々に知ってもらいたいと考えています。課題はボランティアの高齢化や参加者の固定化で、長く活動を続けていくうえで継続的な参加者はとても重要になるので、解決したいと考えています。

國松さん

実際にセーリングを体験したり、全部で12回のMTGをおこない、連盟の方々にも毎回出席してもらって、団体の強みや弱みなどを分析したりしました。継続的に参加するメンバーを増やすため、今回はボランティアに関心のある20代男性にターゲットを絞り、ターゲットの目線に立ち「何も知らない状態からどう興味を持ってもらうか」を考えました。

メンバーには小さな子供がいたり、海外出張が多かったり、国内の移動が多い仕事をしているなどのそれぞれの事情があったため、オンラインや電話なども活用しました。施策を考えるところまでは進んだのですが、実施はこれからです。プロジェクト期間終了後もプロジェクトは継続していくので、効果測定までやっていく予定です。

メンバーからは「セーリングがおもしろかった」「仕事などでは障がいのある人とかかわることはほとんどなかったが、今回参加して(障がいを持った人との)距離が近くなった」という意見があがりました。たとえばくにくに( 國松さん)は車椅子に乗っているので、ミーティングに出てもらうときは、まずどこなら(ミーティングが)できるかを考える必要がありました。でもそこさえ解決すれば、ほかには何も壁はないんだということに気づきました。

安藤さん

Web会議なども活用しながら、団体の現状把握や課題設定などを綿密におこなったメンバー。ふだんの仕事ではかかわることのない相手と密にかかわったことで「障がいをもつ人と一緒に何かをすること」のハードルがなくなり、新たな視点がもたらされた。

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「情熱」が社会人を動かし変えていく

4団体の発表を見た廣瀬さん、中田さんは、それぞれこのように語った。

廣瀬さん

みなさんの情熱をものすごく感じました。4つのプロジェクトすべての根底に、目的や大義や情熱がある。あと、リソースが足りていない団体さんの負担にならないような仕組みを残せるのもすごくいいですね。

自分たちが「変えたい」という想いと、中の人(団体さん)は変えたくないという想いがあってもお互い妥協しちゃダメで、変えなければいけないところもあると思う。自分が信じていることは相手に伝えて、変えるべきところは変えていくことも大事だと思いました。

中田さん

「スポーツっていいな」とあらためて思いました。想いのある人が集まるということがまず大事で、プロジェクトのプロセスも、相当な情熱を持ってやっていると感じましたね。

短期間のプロジェクトに社会人が情熱をもって取り組むなかで、いつもの生活からは決して得ることができない発見があったり見えかたが変わったりしたことも、パラスポーツにかかわった大きな収穫であるといえる。今回の事例からも、パラスポーツをムーブメントにしていくヒントがある。

自分たちはパラスポに何ができるのか

第三部の交流会・ ネットワーキングでは、ペアワークやグループワークを通じて、自分がパラスポーツにどうかかわっていきたいかを、来場者全員で考える時間が設けられた。トークセッションや事例発表を参考に、パラスポーツにどうかかわっていきたいかを「企業としてかかわる」「ボランティアとしてかかわる」「パラスポーツ団体と直接かかわる」の3つに分かれ、10名前後のグループで話し合いがおこなわれた。

各所で白熱した意見交換が繰り広げられ、会場はこの日一番の熱気に包まれた。イベントを通じて「何かやってみたい」「こういうことができそう」という想いがふくらんだ参加者も多そうだ。

各グループ代表者の発表では、パラスポーツに対するネクストアクションへの意欲や熱意が垣間見れた。

「『見た人の印象に残る写真やエネルギッシュな写真などを撮影してサイトなどにアップする』『 障がい者にあった医療サポートができるのでは』という意見があがった。一過性のブームで終わらせないために何ができるか、学生ターゲットにする、営業ができる人がコミットするなどのアイデアが出た」(企業としてかかわる)

「グループの人たちは、ボランティア経験がない・あまりないという人が大半だった。今日のイベントに参加したことで、取り組みについて知ることができた。パラリンピックやパラスポーツは、それぞれの役割でボランティアができるのだと知り、その情報をまた周りに発信することが大事だと思った」(ボランティアとしてかかわる)

「今日参加されたパラスポーツ団体の方に話を聞いたところ、ボランティアとしてやることは『道具を運ぶ』など、そんなにむずかしいことではないと知った。一方で、たとえば競技記録を紙に書いてあとから転記するという作業をしている団体さんもあると知って、効率化できるのではないかと思った。『自分の常識は人の常識ではない』『健常者と障がい者が一緒にできることもある』と理解した」(ボランティアとしてかかわる)

パラスポーツをムーブメントにするために

東京パラリンピックの開催時期は延期となったが、社会人が「応援する」ところから少し飛び出してパラスポーツにかかわってみることで、自分なりの強みや得意なことを活かした盛り上げ方ができたり、新しいものがうまれたりする。それが、吹いても簡単には消えない炎のように、パラスポーツをブームで終わらせずにムーブメントをつくることにつながるのではないだろうか。

この場所がパラスポーツのムーブメントのスタート地点となり、つづくことを期待したい。

写真:松村宇洋(Pecogram)

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手塚 巧子
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編集者
1987年生まれ。日本大学芸術学部卒業後、出版社勤務等を経て、ライター・編集者として活動中。ビジネス、社会問題、金融、女性・学生向け媒体など、幅広いジャンルにて記事を執筆。小説執筆も行い、短編小説入賞経験あり。