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公務員×NPO法人経営者  新米パラレルワーカーが聞く、公務員が2枚目の名刺を持つ理由 (後編)

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前編では、「NPO法人好きっちゃ北九州」の設立のきっかけとこれから、法人経営者として2枚目の名刺を持つ上でのタイムマネジメントの大切さについて聞くことができました。後編では、公務員が2枚目の名刺を持つ上で、大切にするべきことや、2枚目の名刺の1枚目の名刺への影響や変化についてインタビューしていきたいと思います。

※新型コロナウイルスの感染予防のためオンラインによるインタビューを実施しました。
(インタビュー実施2022年2月)

■入門真生(NPO法人好きっちゃ北九州 理事)
本業は、消防士。現在は北九州市の区役所にて、防災係長を務める。
2枚目の名刺として、ローカルな小学校区単位での郷土愛を育むことを活動目的とする
NPO法人好きっちゃ北九州の理事をしている。4人の子どもを持つ父親でもあり、PTA活動にも力を注いでいる。
▶︎Facebook :https://www.facebook.com/masao.irikado
▶︎note: https://note.com/irikado_masao

NPO法人好きっちゃ北九州について
▶︎Facebook:https://www.facebook.com/nposukicchakitaq/

■聞き手:濵村和生(はまむー)
NPO二枚目の名刺広報ユニット員/プロジェクトデザイナー。
本業で京都市の行政職員をしながら、非営利団体の活動をデザインやプログラミングでサポートする
NPO法人FREE BOXの代表理事をしている。

1. 公務員が2枚目の名刺を持つことについて

ー個人的にですが、公務員は民間と比べると2枚目の名刺を持ち辛い風潮があると思います。僕自身も、誰かに2枚目の活動について話す時、どこか躊躇してしまう自分がいます。

(入門さん)地方公務員法を見ると、「営利企業の従事制限」と「職務専念義務」の2つが副業禁止の理由になっています。「全力で公務にあたること」「公務以外にお金をもらってはいけない」といった意味があるんだろうなと思います。
2枚目の名刺を持って活動しているといると、「余力あるのなら、より1枚目である公務に従事するべき」「1枚目以外でどんな形であれお金をもらうべきでない」といった考えが公務員のパラレルワークへの風当たりの強さの原因になってるのかなと思いますね。

ー公務員は「全体の奉仕者」としての側面がありますからね。

(入門さん)公務員の中にも、NPO法人に限らず2枚目の名刺を持って、ボランティアやスポーツを教えている人などは少なくないと思います。でも、もしかしたら、その分仕事を疎かにする人も中にはいると思います。そういった人がいると、「仕事をちゃんとしろ」と指摘するがいるのも仕方がないですよね。それが、2枚目の名刺の持ちづらさを感じさせるとしたら残念なことです。

ー2枚目の名刺を持つと、やはり1枚目、本業に本気で向き合うことも重要になってくるわけですね。

(入門さん)だからこそ、自分は全力で仕事をしようと思っています。現在は災害対応や地域防災力の向上への要である防災係長を務めています。いろいろと仕事をこなす中で風当たりの強さを少なからず感じることもありました。でも、いつか役所ができないことをNPOが支えていく時代がくるという信念もあり、やり抜きました。

ー入門さんのように1枚目の名刺にも誇りをもって働き、2枚目の活動ともしっかり両立して、ご自身の想いを叶えるような生き方を、私も体現できるようになりたいです。

2. 1枚目の仕事に対してもプロであるということ


ー公務員は人事異動に業務を左右され、仕事のモチベーションを保つことが難しい側面があります。入門さんは、そんな中で1枚目を全力で続けるモチベーションをどのように保っているのでしょうか?

(入門さん)私は、1枚目がなあなあになると2枚目の価値が薄れてしまうと思っています。

ー2枚目の活動をちゃんと価値のある活動として取り組むには、1枚目でいかに本気で取り組むのかが大事になってくる。

(入門さん)はい、その通りです。1枚目の仕事を疎かにして2枚目の活動に注力してしまい、「2枚目の活動をしているから1枚目の仕事を疎かにしている」と評価されるのは本意ではありません。だから、1枚目ではその道のプロでありたいと強く思っています。今、防災の係長をやっていますが、防災については北九州で一番詳しい自分でいたいと思っています。知識だけでなく、実践も含めて、自負が持てるよう研鑽を積んでいます。救急行政にいる時も、現場の消防隊長している時も誰にも負けない気持ちで勉強しました。1枚目の名刺も名ばかりではなく、その分野では誰に何を聞かれてもいいようにしました。

ー本業に対しても、語れるほどの力を入れる必要があるということですね。

(入門さん)他にも、自分の管轄する業務以外にも公務についてはアンテナを立てています。消防以外にも市政全体のことを把握しようと心がけて、役所内の職員向け案内や市のホームページについても毎日をチェックしています。
市職員としてもプロでありたいと思っているので、自分の興味関心に関係なく、に大きな施策についてもチェックしています。市議会での話題についても、少なくともタイトルには必ず目を通すようにしています。

ー1枚目を本気でやるからこそですね。1枚目を本気でやる中で身についたことはありますか?

(入門さん)役所で身に付く能力の1つはやはり資料作成能力です。抜かりない、正確な文を作成する能力は消防行政で培うことができたと思います。また、「ワンペーパーで内容を伝える方法は、役所で学ぶことができました。伝える能力があると、1ヶ月くらいかかりそうな調整を2、3日で済ませることができたこともありました。ワンペーパーなら1、2時間で作ることができます。毎日noteを書いていますが、文章を書くのはい方だと思います。

ーそういった能力を身に着けることできると思えれば、それがモチベーションや原動力になりそうですね。

(入門さん)そうですね。ただ、公務の中では、いつも接する情報や人も同質で、世界の広がりがないという側面もあります。なので、NPOの活動を通して、周りの人から刺激を受けることが多く、資料の作り方や話の進め方についても新しいやり方を知ることができています。

3. 2枚目の活動で学んだ協働のために必要なこと

ー1枚目では身に着けることができない、2枚目の名刺でだからこそ、身についた力はありますか?

(入門さん)いっぱいありますね。新しいことを生み出し変えていく、企画・実践力は公務だけでは身につきにくいです。公務は基本的に上から降りてきた通知やマニュアルに沿ってやっていくことが多く、変革していく力はあまりないです。それ故に、組織として変わることは難しい。一方で、NPOの活動は、新しいことを生み出したり変えて行く必要があり、それをやり遂げるビジョンや実践力を身にけることができています。

ー1枚目の防災の仕事をする上でもやはり生かされる場面はありましたか?

(入門さん)はい、ありました。防災は地域住民があってこそで、地域住民が防災について主体的に取り組んでもらうことが大事になってきます。今までは、行政と地域住民が2になっていましたが、それを行政と地域住民が一体となって防災を進めていくスタイルに変えていこうとするとき、「協働をテーマとするNPOでの活動の経験が生かされました。

ー具体的にどういったことをされたんでしょうか?

(入門さん)避難所運営を市役所員ではなく、地域住民とともに運営する事業に取り組んでいますそもそも、区役所は様々な要因が相まって、人手不足に陥っています。そこで、地域の頼れる人材の力を借りるわけです。そうすると、避難所である市民センターに「地域のおじちゃん」がいることで、「避難所に行け」ではなく「避難所においで」というスタイルをつくっていきます。

ー市民主体のまちづくりなんですね。市民ができることは市民がやっていく。

(入門さん)「行政の役割を部分的に市民にあずけた」ということです。町内会やまちづくり協議会の人が力を持っているのであれば、そこに報酬を払って委託し、一緒に防災に取り組んでいこうというものです。
行政が避難所運営をした場合、翌日も仕事がある中で、夜通しで運営をすることになり、体調を崩す職員も出てくることもありました。ですので、そういった職員の体調管理という点でも意味のある事業だと思います。

ー地域の人が加わることで、一緒に街を守るパートナーが増えて、様々なポジティブな効果があるんですね。

(入門さん)そうですね。こういった視点もNPOの活動で培うことができました。実はこの事業はとても調整が難しいものです。役所がすべきことを地域に押し付けるような形に捉えられてしまったり、地域の負担ばかりが増えていくと思われかねないんですね。

ーやはり伝え方が大切なんですかね?

(入門さん)そう。伝え方が大事。行政にとっても、地域の人にとっても、住民の安全安心や住民に防災意識を持ってほしいのは共通の目標だと思います。
私の場合は、区役所の人手不足の現状を説明した上で、「大きな災害の時は当然行政も一緒にかけつけるが、そうでない場合は、地域のみなさんが頼りになるのなら頼りにさせてほしいこと」をしっかりと伝えました。そうすると、ありがたいことに「任せとけ」と言ってもらえました。

受け取り方が全く違ってきますね。

(入門さん)それに加え、手間を惜しまないことも大切だと思いました。事前に26校区全ての会長一人一人の元へ足を運んで説明させていただき、その上で全体の場で伝えました。大きなイベントをする時も、根回しや頭出しをして、先に話をして、全体に話を展開する。こうすることで、それぞれが主役だと思っていただけます。それが、協働を創る上での作法です。

4. 2枚目の名刺を持とうと思っている公務員へのメッセージ

ー貴重で勉強になる話をありがとうございました。最後に、2枚目の名刺を持とうとしている公務員へのメッセージをお願いします。

(入門さん)2枚目の名刺を通じていろいろな世界の出会いがあり、携わることで得られる知識や能力があります。公務の中で閉じこもっていると、やはり世界は狭くなり、世間のことがわからなくなるので、2枚目の名刺をもっていろいろな世界に飛び出すことが、結局は公務にかされていきます。私自身、1枚目の名刺が恥ずかしくないように、これからも誇りを持って活動し、2枚目の名刺を堂々と見せられるようになりたいと思います。公務員は勤務時間は決まっており余暇の時間もあります。だからこそ、2枚目の名刺につぎ込む時間や体力もできると思います。

家事・育児、公務員としての仕事も、法人経営者としても、決して手を抜かない入門さんの姿は、新米パラレルワーカーであり、社会人3年目の公務員としても、とても学びのある時間でした。
民間ではなく、公務員が2枚目の名刺を持って活動するからこそ、ついてくる悩みや、2枚目の名刺の価値を下げないためも、1枚目の仕事にプロ意識を持つことの大切さ、これから公務員パラレルワーカーとして活動していく上で大切な話ばかりでした。
2枚目の名刺だけでなく、1枚目の名刺にも誇りを持てる立派な公務員になるのと同時に、入門さんのような素敵な家族を持つ、良き父にもいつかなりたいと強く思いました。

 

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ライター

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濵村 和生 kazuki hamamura
ライター
二枚目の名刺の広報ユニット員、サポートプロジェクトデザイナー。 京都市役所に勤めながら、NPO法人FREEBOXの代表理事として法人運営をし、「やりたいこと」と「できること」で社会貢献する「場」の構築を目指す。
島田正樹
編集者
さいたま市役所に勤めながら、NPO法人二枚目の名刺「2枚目の名刺webマガジン」の編集者として活動。その他、地域コミュニティづくりの活動や、公務員のキャリアに関する活動などにも取り組む“公務員ポートフォリオワーカー”。『仕事の楽しさは自分でつくる! 公務員の働き方デザイン』(学陽書房)著者。ブログで日々情報発信中。https://note.com/shimada10708 https://magazine.nimaime.or.jp/shimadamasaki_interview/