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2019.06.07

ボランティアや社会貢献に関心のなかった彼女に訊く「なぜNGOで8年も働けているんですか?」

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「ソーシャルを仕事にする」は、NPOやNGOに関わりたい思いを持ちながら、なかなか一歩を踏み出せずにいる「あなた」のための連載です。NPOやNGOで働く彼ら彼女らが、なぜソーシャルを生業としているのか、普段どのような仕事をしているのか、これから先に何を見据えているのか。そして2枚目の名刺として携わりたいあなたに、何を求めているのか。あなたが2枚目の名刺を持つ第一歩に繋がることを祈ってお送りします。

Case.1民間企業に就職した彼女が、社会人3年目でNPOに転職した理由
Case.2「NPOで一花咲かせたい!」自分の暮らしも豊かにするためのNPOへの挑戦
Case.3「難民が暮らしやすい社会=全ての人に配慮された社会」だから私は難民支援に取り組む
Case.4「社会的意義をダイレクトに感じられる仕事がしたい!」起業を夢見た彼がNPOに出戻った理由

Case.5
公益社団法人シャンティ国際ボランティア会 平島 容子さん

大学卒業後、百貨店、広告代理店、出版社などを経て2011年にシャンティ国際ボランティア会に入職。「絵本を届ける運動」事業に携わったのち、2013年からは広報担当として情報発信や会員の募集・コミュニケーションなど法人を支える立場で活躍中。

(絵本:「おおきなかぶ」福音館書店)

「あなたの仕事の軸はなんですか?」

こう訊ねられて、即答できる人はどのくらいいるのだろうか。

就職活動のときは「こういう軸で活動しています」とよく面接官や就活仲間に話していたが、働き始め、働くことに慣れたいま訊ねられると、自分の中で何が拠り所になっているのだろうかと少し考え込んでしまう。

今回は、自身のキャリアを創っていく中で、『絵本』という好きなモノと再会し、それをひとつの軸として働いている平島容子さんにお話を伺った。

新しい環境へ、転職と挑戦を重ねた20代

百貨店、広告代理店、出版社、NGO。平島さんが積み重ねてきたキャリアは、業種だけを見ると多様性に富んでいる。

「最初に就いた仕事は、百貨店の婦人服売り場での接客でした。3年間続ける中で任される仕事も増えて、売り上げを伸ばすこともできるようになりました。」

順調に成果を挙げていたが、入社から3年という誰もが1度はキャリアを見つめなおすタイミングで、個人相手ではなく、大きな仕事をしたい想いから、法人を相手にする広告代理店へ転職をした。

「当時はテレビからインターネットへとマスメディアの主流が変わりつつあって、WEB広告の業界も盛り上がり始めた時代。忙しい毎日でしたが新しいことにチャレンジできる機会が多かったです。」

広告業界でのキャリアを重ねるうち、「手触りのある仕事が懐かしくなった」という平島さん。再び、「モノ」を扱う仕事がしたくなり、出版社へ。

その職場では得られないやりがいや環境、成長を求めて、新しいチャレンジとして転職を重ねた20代だったようだ。

好きだったモノを仕事にする

「絵本って、私だけじゃなく、女性の心を惹くものだと思うんです。」

そう語る平島さんの言葉に、取材時にいた筆者以外の4人(取材時:女性4人、男性1人/筆者)は大きく頷いていたから、きっとそういうものなのだろう。

次の転職先は、平島さんが「小さいころから好きだった」という『絵本』を扱う出版社。
海外の絵本の版権を獲得し、日本語訳をした本の出版やキャラクターのグッズ化を行っている、絵本を商材の中心としている会社だった。

「出版社は狭き門だし、なかなか中途で入れる世界ではない。そういう意味ではラッキーでしたね。」

そう語る平島さんが主に従事したのはキャラクターのグッズ化。メーカーとのコラボ商品を開発したり、グッズを売ってくれる販売店の開拓をしたりと、前職の広告代理店で培った企画営業のスキルが活かせる職場だったという。

平島さんは自分の仕事として扱ううちに、絵本の魅力にさらに惹かれていた。

想いと活動への共感が決め手

やがて、次の転職先を探し始めた平島さん。当初は経験の長い広告系の仕事で探そうと思っていたが、「絵本 求人」で検索をすると、『アジアの子どもに絵本を届ける』仕事の求人がヒットした。それがシャンティ国際ボランティア会(以下、シャンティ)だった。

「出版社で働いていたとき、絵本やキャラクターのアジア展開をしたらどうかって考えていたことがあったんです。ですが、職場の同僚から『アジアの他の国には絵本なんてないから無理だよ』と言われて、初めてその現実を知ったんです。そんな背景もあったので、アジアの子どもたちに絵本を届ける仕事って、すごく素敵だなと思って。

正職員ではなく2年間の契約職員での募集だったが、働く条件など関係なく、即決だったという。

「プロジェクトベースで仕事をする感覚で、『2年間のプロジェクトだ』と思って入職したので、あまり気にはならなかったですね。会社じゃなくてNGOだということも、そもそもNGOについて全然知らなかったので、それも気にしなかったです。」

笑いながら振り返る平島さん。NGOだけでなく、ボランティアや社会貢献活動ともそれまでは無縁。国際協力やソーシャルな活動に関心なく入職した平島さんは、シャンティの職員の中でも稀有な存在だという。

絵本事業に関わる多くの人の想い

シャンティは、1981年の設立以来、絵本をひとつの軸としてアジアの子どもたちへの教育支援(図書館の整備、学校の建設など)や緊急救援をおこなっているNGO。

平島さんが入職後に最初に携わったのが、その基幹事業のひとつである「絵本を届ける運動」だった。子どもが気軽に触れることができる本が足りない地域に向けて、日本の絵本に現地語の翻訳シールを貼り、子どもたちが母語で読める絵本として届ける取り組みだ。

(ボランティアの方々による絵本ワークショップ)

働き始めて驚いたのは、その事業に協力してくれる人の多さと温かさだったという。

「絵本を発送する作業を手伝ってくれるボランティアの方、絵本の翻訳を手伝ってくれるボランティアの方……そうした方の数に驚きました。それに、そうしたボランティアの方や寄付をしてくださる方が、自分たちが手伝ってくれているにも関わらず、私たちに『ありがとう』という言葉をかけてくれる。絵本が好き、子どもたちのために何かしたい、など関わってくださる人の想いはそれぞれですが、皆さんの気持ちがとても温かくて、感動しました。」

企業で働いていた時には出会わなかった人たちだと話す平島さん。

2013年からは広報に異動し、会員とのコミュニケーションや会員を増やすための活動を中心に仕事をしている。
報告会やワークショップの企画・運営はもちろん、前職の経験を活かして、団体を応援してくれている作家さんとコラボしたグッズを開発することもしている。ノベルティにして会員特典にしていたり、販売したりしているそうだ。

「一昨年、初めて現地に行って、現地の子どもたちに本を届けてきました。本当に喜んでくれて、改めていい事業ができているんだ、と感じることができたのは、心の支えにもなっていますね。かこさとしさんなど有名な絵本作家の方からも『本当にいい取り組みですね』と言ってもらえることもあって、いい仕事をしているんだと感じられる機会が多いのは、モチベーションになっています。今は大好きな絵本には直接的には携わりませんが、多くの人の想いを分かっているからこそ、自分の役割を頑張ろうと思える環境です。」

(「絵本を届ける運動」により翻訳され、ミャンマーに届けられた絵本 ⓒAtsushi Shibuya)

「ソーシャルを仕事にする」

シャンティで働き始めて8年。企業とソーシャルセクターの違いについて平島さんに訊ねてみた。

「今の仕事はこれまでのキャリアの総決算。個人を相手にしていた百貨店時代のコミュニケーションの仕方も、広告代理店で学んだPCや営業のスキルも、すべてを活かすことができています。自分で自分の業務を管理して、ゴールを設定して、創意工夫する、ということも同じですね」

仕事の仕方は企業にいるときと変わらないが、一方で異なることもあるという。

『商業的な絵本』を知っているからこそ、今の仕事の難しさを感じることはよくあります。出版社の時は、絵本やキャラクターグッズを買ってもらうことがゴールでしたが、今は、ノベルティグッズを受け取ってもらうだけではダメなんです。そこから私たちの取り組みやその裏側にある社会課題について知ってもらって、行動してもらうことがゴールなので。」

もちろん数値的な目標を設定することはあるのだろうが、それに一喜一憂したり、その達成に向けて効率を追求したりするだけではいけない。自分たちが向き合う社会課題の解決に繋がるかという視点が重要だという。

個人の実績を評価するという文化、考え方がないのも大きな違いですね。組織やチームの一体感がより強いです。最初はその文化に戸惑いもありましたが、今は居心地のよさを感じています。」

「好きなことを軸に視野を広げる」という働き方

「私自身、シャンティにきて、民間企業では出会わなかった価値観を持つようになりました。私と同じような、ソーシャルの世界を知らなかった人が慈善活動に参加できる機会を作っていきたいと思っています。参加して体験して、視野を広げられる場面を作りたい。」

偶然働き始めたNGOで、価値観が大きく広がった経験を他の人にも伝えていきたいという平島さん。関わってくれる作家さん、図書館司書さん、デザイナーさんの力を借りながら、絵本を軸にそうした機会を作りたいと、最後に話してくれた。

小さいころから自分が好きだった「モノ」を仕事にし、それに携わる働き方を選んだ平島さんの話には、大切にしたい芯があって、そこから強いパワーが溢れていた。

企業やソーシャルセクターという組織に関係なく、自分が周りに広げていきたい「コト」、解決したい「コト」が明確であると、仕事をしていく中で周りを動かすような強い力を持つのだろう。

自分にとっての『軸』は何か。そんなことを考えてもらうと、私やあなたの次のステップに繋がる何か新しい発見があるかもしれない。

子ども支援に興味のある方、「絵本を届ける運動」に参加しませんか?

シャンティ国際ボランティア会では、本を知らない子どもたちに絵本を届けるためのボランティアを募集しています。参加方法は2つ。

1)「絵本に翻訳シールを貼る」ボランティア

贈りたい絵本を決めたら「絵本セット」を申し込み、現地語の翻訳シールを貼って返送するボランティア。いつでも、どこにいても参加でき、子どもや仲間と一緒に楽しく国際協力することができます。
詳しくはこちら

2)東京事務所での発送サポート

全国から届いた翻訳絵本の点検・修正作業を行うボランティア。短時間でもOK! 平日継続的に東京事務所に通ってくれる方を募集しています。
詳しくはこちら

「絵本を届ける運動」の他にも、インターンやボランティアを募集しているので、団体の活動に共感する方はぜひチェックしてみてくださいね!
詳しくはこちら

今週末(6/8)開催!「絵本を届ける運動20周年記念 1日限定アジアフェスティバル」

「絵本を届ける運動」が今年20周年を迎えるのを記念して、6月8日(土)に各国スタッフによるトークイベントや、アジア各国の「ことば」や衣装を体験できるワークショップなどが実施されます。

入場無料でキッスズペースもあるので、「絵本が好き」「アジアの雰囲気が好き」な方、ぜひ足を運んでみて!

詳細&参加申込はこちら

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カメラマン

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大西弘毅
ライター
多様な価値観・働き方に触れること、文章を書くこと、写真を撮ることが好きで、学生の頃から「2枚目の名刺」としてアマチュアライター実践中。1枚目の名刺は経営コンサルタント。3枚目の名刺は国家資格キャリアコンサルタント。
はしもと ゆふこ
編集者
女性誌出身の編集者。 「人生100年時代」に通用する編集者になるべく、雑誌とWebメディアの両方でキャリアを重ねる。趣味は占い。現在メインで担当するWebメディアで占いコーナーを立ち上げ、そこで独自の占いを発信すべく、日々研究に励んでいる。目標は「占い師」という2枚目の名刺を持つこと。
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