「社会的意義をダイレクトに感じられる仕事がしたい!」起業を夢見た彼がNPOに出戻った理由
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民間企業に就職した彼女が、社会人3年目でNPOに転職した理由
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「NPOで一花咲かせたい!」自分の暮らしも豊かにするためのNPOへの挑戦
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「難民が暮らしやすい社会=全ての人に配慮された社会」だから私は難民支援に取り組む
Case.4
特定非営利活動法人エティック 伊藤 順平さん
大学在学中にコンサルティング会社やNPO法人ETIC.でのインターンシップを経験した後、全国展開をしている飲食企業に新卒で入社。在籍6年のうちに店長・エリアマネージャー・海外店舗の立ち上げを経験した後、NPO法人ETIC.に転職。現在は、地域に貢献したいと考える都市部人材と、経営課題の解決を望む地域企業を結ぶマッチングプラットフォーム「YOSOMON!」の事業責任者として活躍中。
人生が動き出した、20歳の夏。
起業している人ってかっこいい。
成し遂げたいことを掲げて、自分でその夢や目標にまっしぐらに向かっていて。
決まって、カリスマ性があって。
自分もそんな風になりたいけど、やりたいことも明確でないし、人生を変えられたような大きな原体験も特にない。
いったい、どうしたらいいんだろう。
時は2005年、20歳になる年の夏。
ITベンチャーや学生起業家が注目される起業ブームの中で、起業することに憧れを抱いていた大学生、伊藤順平さんは、そんな思いを抱いていたという。
「尊敬していた知り合いのベンチャー企業の社長に、そんな自分の気持ちを相談したら、『起業は目的でなく手段だよ』って言われたんです。たしかに、自分が何をしたいのか、この時は考えられていませんでした。」
進む道は見えていなかったが、そこがスタートだった。
自分の居場所を見つけたインターンシップ経験
伊藤さんが現在働くNPO法人ETIC.は、大学生に向けた実践型インターンシップや起業家を養成するプログラムを通して、『社会の未来をつくる人』を育む活動を創業以来行っている。
伊藤さんがNPO法人ETIC.と出会ったのは、大学2年生の夏休み。前述した社長に紹介されたことがきっかけだった。成長に繋がるからと紹介してくれたのだという。
「言われるままにイベントに参加して、ベンチャーのコンサルティング会社でのインターンに参加しましたが、なかなか役立てなくて、悔しい思いをしながらの活動になりました。」
最初のインターンでは思うような結果が出せなかったが、ETIC.のスタッフに誘われ、翌年はETIC.の運営側として、参加する学生のインターン支援やコーディネートを担うこととなる。
「インターンに参加したい学生と企業のマッチングを行う、マッチングフェアという企画の責任者をやらせていただいたんですが、それが成功体験になりました。ETIC.の職員からも、参加した企業さんからもイベントの雰囲気を褒めてもらえて、すごく達成感を感じました。自分が貢献できたことが嬉しかったんだと思います。」
自分が役立てる場所を見つけた伊藤さんは、それ以降「もっとETIC.に関わりたい!」と、ETIC.での学生インターンを継続して行うようになる。インターンのやりすぎで、大学生活を5年間過ごすほどに夢中になった。
入社理由は「企業理念と社員の表情」
やがて就職活動を始めた伊藤さん。たくさんの会社を回って忙しく活動する就活生とは違って、ご自身は『斜に構えた就活生』だったと話してくれた。
「なんとなく『民間企業に就職した方がいいのかな』とは思っていましたが、一方でNPOでの活動を長くしていたせいか『民間企業は悪』というイメージを持ってしまっていて。なかなか気持ちが乗らなかったこともあり、大手企業の活動が終わった頃から活動を始めたので、かなり遅い就活のスタートでしたね。」
そのタイミングで説明会を実施していた会社の中に、伊藤さんが気になる飲食業の会社があった。
「以前に創業者の本を読んだことがあったんです。もともと商社の社内ベンチャーから始まった会社で、起業のきっかけや創業者のチャレンジの仕方が面白いなと思って、関心を持っていました。」
「飲食業界で働きたいわけではなかった」伊藤さんだが、この会社の説明会に参加して、NPOでのインターンの中で自然と培われた『社会性のある仕事がしたい』という志向とマッチするものがあり、入社を決断する。
「人事の人や社員の顔がすごく良かったんです。社会性のある会社のミッションに共感して働いていたり、それを追及した行動を社員が自然としていたりすることが肌で感じられた説明会でした。社内から新しい事業を生みだしていきたいという方針にも惹かれ、いつか社内ベンチャーとして新しい事業をつくってみたい、という漠然とした思いもありました。」
成長した5年、葛藤と向き合った1年
入社してから6年間の在籍期間の中で、多くの時間は店舗の店長業務を担った。アルバイトスタッフの成長、店舗の売上伸長、お客様とのコミュニケーション……。店舗業務の面白さに触れ、仕事に意欲的に取り組む中で、いつしか入社当時に思っていた『新しいことをやりたい』という想いは伊藤さんの心の中の隅の方に隠れるようになっていた。
在籍最後の1年はシンガポールに赴任し、大型店舗の店長を任された。
「当時は、現地法人を立ち上げて1年のタイミングで、3人目の日本人スタッフとしての赴任でした。シンガポールでは3店舗目になる店舗の立ち上げをするという、チャンスをもらったんです。」
しかし、「シンガポールでは頑張り切れなかった自分がいた」と伊藤さんは言う。
流暢に話せない英語、店舗の売上の伸び悩み、現地スタッフとのミスコミュニケーション。店舗に、会社に、貢献できていない自分との葛藤の日々だったという。「自分はなぜこの仕事をやっているのか」と自問自答したときに、明確な答えを見つけられない日が続き、一度振り出しに戻ってこれからの人生を考えようと、退職することを決めた。
見つけたミッションは「3D空間で動ける人を増やすこと」
退職したあとの自身を、ゲーム機のコントローラーになぞらえて「3D空間に戻ってこられた」と伊藤さんは表現する。
「気づかぬうちに、自分の動きが十字キー的になり、毎日ただ前にだけ進んでいた。会社を辞めたとき、3Dスティックで360度自由に動けるコントローラーを取り戻した、そんな実感がありました。明日どう生きてもいい。どんな仕事をしてもいいんだと思えたんです。」
まえ、うしろ、みぎ、ひだり。
組織の中にいると、たしかに組織に従って動かないといけないことも多い。何かに縛られず、自分の思う方向に好きに歩める、その感覚が新鮮だった。
「会社を辞めた段階で、もっと社会的意義をダイレクトに感じられる働き方をしたい、ソーシャルな活動に関わりたいという自分の気持ちには気づいていました。ですが、自分には何か特別な原体験があったり、特定の社会課題に対する憤りがあったりするわけじゃないから、特定の領域を選べない。時間をかけて今後のキャリアを考えたときに、『主体的に自分から動ける人を増やす、そんな活動をしたい』と思うようになりました。」
自分が思った方向へ、自分から進める人を増やしたい。
その人がやりたくてやる、わくわくする選択ができるようなサポートをしたい。
自身の自由になったその体験から、そんな想いが明確になった時、今後のことを相談していた相手の口から出た、そのシンプルな言葉で、伊藤さんはETIC.への出戻りをすることとなる。
「それ、ETIC.でやればいいじゃん」
当時のETIC.は、伊藤さんが在籍していた頃の何倍もの規模の団体になっていた。
「『戻るのはダサい』とどこかで思っていたんですよね。でも一方で、『自分のやりたいことってETIC.がやっていることだな』とは思っていたんです。ETIC.のやっていることは、いろんな領域で社会課題に対峙している人たちを応援したり、そこにチャレンジしたいと思っている人の背中を押したりすることなので。」
(画像:NPO法人ETIC.のホームページより流用)
距離を置き、時間をかけて考える中で、改めてETIC.の理念や活動内容に共感して、復帰することを決めた。
ーーー後編に続く
ライター
編集者
カメラマン