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「本業ができてから副業でしょ」なんて全然ダメ!~生駒市・小紫市長インタビュー(前編)~

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島田

本日は、職員の公共性のある組織での副業を促進している奈良県生駒市の小紫市長に、「公務員の“2枚目の名刺”」についてお聴きしたいと思います。よろしくお願いします。

ざっくばらんな感じで、何でもお話させていただきます。

小紫

 

小紫 雅史 1974年、兵庫県出身。1997年、一橋大学法学部 卒業後、環境庁(現環境省)入庁。NPO法人プロジェクトK(新しい霞ヶ関を創る若手の会)創設メンバー。2003年、シラキュース大学(米国)マックスウェル行政大学院 卒業(行政経営学修士)。2011年、全国公募により生駒市副市長に就任。2015年、生駒市長に就任し現在に至る。市民と行政が共に汗をかく「自治体3.0」を提唱。著書に『公務員面接を勝ち抜く力』(実務教育出版)、『10年で激変する!公務員の未来予想図』(学陽書房)などがある。

島田:小紫さんの著書『10年で激変する!公務員の未来予想図(学陽書房)』『公務員面接を勝ち抜く力(実務教育出版)』は、公務員を中心にSNS上で感想などの投稿を数多く拝見しました。

小紫:市民の皆さんとともに取り組んで、市長1期目の成果を全国的にも認知してもらえて、こういう出版や講演の依頼に繋がったことがうれしいですね。

生駒好きやねんって言うんやったら、何かまちづくりやってくれよ

島田

全国的に認知されている取り組みの中でも、著書でも紹介されている職員の「副業」促進は話題になりました。この取り組み自体は、あくまで基準の明確化であって、従来許可できなかったものを許可できるようにする、いわゆる緩和ではないんですよね。

そうですね。今まで各自治体が「副業」をやってはいけないと勝手に思いこんで、やってこなかっただけであって、国が基準を変えたりしなくても、公務員の副業はできるはずだと生駒市では考えています。

小紫
「地域貢献活動を行う職員の営利企業等の従事(副業)の促進」
職員の職務外における地域貢献活動を促進することを目的に、報酬を得て地域貢献活動に従事する場合の許可基準等について定めたもの。対象となる活動は、以下の2つを満たすもの。
(1) 公益性が高く、継続的に行う地域貢献活動であって、報酬を伴うもの。
(2) 市内外の地域の発展、活性化に寄与する活動であること。

島田:公務員の副業関連の動きでは神戸市の取り組みが2017年3月に日本経済新聞で報道されたのが、最初だったというイメージですが、生駒市の人事課の方に聴いたところ、神戸市の件が報道される前から生駒市でも検討自体はされていたとか。

小紫:そうですね。職員が地域に飛び出すための施策は、以前から担当部署に指示していて検討も進めていました。そんな中で神戸市さんの件が出たので「なんだ、やっぱりできるやん」という話になり、一層加速した、という事情がありました。

島田:職員が地域に飛び出すための取り組みで言うと、生駒市では人材育成基本方針でもその後押しをしていますね。その中に「地域愛」という項目があります。この「地域愛」という項目で、職員が地域に出ていくこと、更には副業することを後押ししている。

小紫:「地域愛」の項目は、生駒好きやねんって言うんやったら、何かまちづくりやってくれよという意味も含めて、行動とワンセットになってまちづくりに繋げて欲しいという思いを込めたものなんです。「好き」という思いだけではダメなんです。その行動が、職員にとって何よりの「人材育成」に繋がると思うので。

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多くの生駒市民から愛されている「生駒山」(写真提供:生駒市役所)

島田:一方で、同じように職員の副業促進に取り組んでいる神戸市は、私たちが担当部署にお聴きしたところ、明確に「地域貢献」だと言っています。

小紫:人材育成と地域貢献の両方を意図した取り組みですね。地域に飛び出して活動することで、職員が市役所での仕事ではできない経験をしたり新しい知見を得たりすれば大きな成長になります。同時に、地域に出て行った先で取り組む活動はまちづくりにもプラスになりますから。

地域でスポーツを教えている職員の取り組みはスポーツ振興にも健康増進にもつながるわけですし、子ども食堂をやっている職員の取り組みも、児童福祉や地方の活性化につながります。農業やったり空き家を使って何か活動する職員の取り組みもそうです。
地域貢献を通じて人材の育成や成長にもなる。両者が密接に関係しているんだと思っています。

以前は副業もボランティアもあまり変わらないと言っていたが……

島田:この取り組みに対する外部の評価、メディアや住民の評価はいかがですか?

小紫:メディアの反応はいいですね。民間企業の副業制度の動きと絡めたりしながら取り上げてくれているメディアが多くあります。
生駒市は市民の多くが市政に関心を持ち、また、市の取り組みとその趣旨をよく理解してくださっています。市民と行政がともに汗をかいて街づくりに取り組む、生駒市の「自治体3.0」のまちづくりとの関係も含めて、この「副業」の意味についても、よく理解してくれています。

副業の制度を作ってから、有償・無償いずれでも、自治会やPTA、消防団から様々なボランティア活動、地域のイベント・企画まで、市役所の職員のまちでの取り組みを発信し、市民にお伝えしてきたので、市民は職員が地域に飛び出して頑張っていることをよくわかってくれ、それが、市民によるまちづくりの活動促進にもなっています。市民の評価はすごく高いと思います。

■自治体3.0のまちづくり

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島田:この自治体3.0の考え方において、職員の地域貢献活動の促進はとても大切な要素として位置づけられているように見えます。

小紫:これには二つの意味があるんです。実は生駒市役所職員のうち生駒市民は半分くらいなんですね。市民に今色々な活動をしてもらっているので、職員が生駒市民としてもきちんと地域に出て行かないと「職員が全然地域に出ていないのになんで私らばっかり頑張らなあかんねん」となっていくでしょう。そういう市民への説得力という意味が一つ。

もう一つは、何より職員も一市民だということです。生駒市の職員として仕事も頑張ってもらわないといけませんけど、一市民として人生も楽しんでもらわないといけません。地元で楽しく暮らしたいのであれば、地域に飛び出すというのは絶対必要な切り口です。本質的には、別に副業でなければいけないということではなくて、まずは地域に飛び出して楽しんでくれたらいいんです。

その上であえて「副業」まで踏み込むのは、地域に飛び出すというのが一番大切ですけど、その先にお金を稼ぐということをあまりタブー視しないで色々と地域で活動が盛り上がり、結果としてお金も回っていくことは自然なことだし、そっちのほうが面白いなと思うからです。
「稼ぐ力」というのは生駒市の一つのキーワードです。

島田:公務員も仕事とは別に地域に飛び出して、お金を稼ぐところに意味があると。

小紫:例えば今だったら、稼ぐ力をつけるための教育に取り組むんだと言っても、稼ぐことをしていない公務員には、よく分からないわけですよね、正直。他にも、地域活性化とか産業振興も「お前ら金稼いだこともないくせに何言ってんねん」とか言われてしまいますが、やっぱり経験することによって、僕らもこんなことして稼いでますと言えるようになりますしね。

島田:私もお金をもらって原稿を書かせていただくときは、より大きな責任感を感じます。上司がチェックしない書き物をし、その記事を読んだ人がどう思うかを想像する怖さも、読んだ人から評価してもらう喜びも、普通に公務員をやっていたらできない経験だなと思います。

小紫:最近思うのは、特に稼ぐ力の意味が大きくなっているということ。これだけ社会が変わっていく中で、65歳で定年してもあと20~30年くらい生きるわけですから、「余生を楽しむ」というコトバはもうこの世に存在しなくなっています。高齢者も専業主婦も、あとは子どもたちもそうですね、現役世代、学生もそうです。

やっぱりお金を本業はもちろん、それ以外の方法で、そして本業についていない人もきちんと稼ぐという視点はこれから大切にしなければなりません。「本業」という言葉自体も意味がないものになるはずですし。

私自身も、以前は地域に飛び出すことが大切であり、副業でも、ボランティアでもあまり変わらないという言い方をしていましたが、最近ではさらに一歩踏み出して、お金を自分で稼ぐ経験を職員も持っておいた方がいい、と言っています。

「本業ができてから副業でしょ」では全然ダメ

島田:なるほど。ところで、今回の「副業」の件に対する市役所内の管理職の皆さんの評価はいかがでしょうか。

小紫:生駒市の職員の中にも、「俺は地域飛び出すなんてやりません」という人もいますよ。
でも、「副業」の取り組みを強化する前から、自治体の職員は、すでに自治会とか消防団とか、スポーツの指導とか、いろんな地域活動に結構参加しているんですよ。今、生駒市では、自治会などの地域活動はもちろん、子ども食堂のようなテーマ別の活動も色々在るから、そういうところに部下が行くのも応援してあげて、と管理職に言っています。

島田:会議の場で市長自ら「部下から相談があったときに、本業が疎かになるっていうことを理由にして制止しないで」とおっしゃったと聴きました。そんな風に部下の活動を制止する管理職もいるということでしょうか。

小紫:全国的に見たら、そういう言い方をする管理職がまだまだ多いと思います。それでも程度差があるんです。「本業をちゃんとやってないだろ、だから副業やるな」という管理職もいれば、「副業とか地域に飛び出すの面白いからええやん、でも本業もちゃんとやらなあかんで」という管理職もいます。

私が環境省のときの上司は後者でした。霞が関の若手公務員が実名で本を出版するときに上司に報告に行ったら最初にまず「面白いね」と言ってくれたんです。他の役所だったら、いきなり「そんなことすぐやめろ」とか、「霞が関を辞めろ」とか言われてもおかしくありません。

でも、環境省ではそういうのを面白がってくれたうえで、「だけど本業もしっかり頑張らないとアカンで」と言われておしまいでした。そういう言い方なら部下もうれしいとと思いますよ。もっとも、そんなこといちいち言われなくても、副業やっている人は、「本業も今まで以上に頑張らないといけないな」なんて当然分かっているんです。

副業とか地域に飛び出す活動をやっている人っていうのは本業が疎かになっちゃったり、例えば遅刻なんかしちゃったりすると、それが副業のせいじゃなくたって「お前、余計な活動しているから本業に影響が出ているやんか」と言われるのが分かりきっているから、絶対本業の方は今まで以上にきちんとするはずなんですよね。

だからむしろ、副業やりたいという人には、どんどんやらせた方が本業でも成果が伸びるんですよ。このことは環境省での経験でも実証済みです。

環境省時代、ある後輩を、私がやっていた「環境省を変える若手職員の会」でワーキンググループのグループ長にしたらすごく伸びたんです。それまでは遅刻も多かったし仕事もボチボチやっていたヤツでしたけど、その後は評価されて自治体にも出向したり、今は環境省の中でも活躍して色々な勉強会も企画しています。

だからこそ、上司が「本業ができてから副業でしょ」「副業? お前なにやってんねん」っていう雰囲気・ニュアンスで言っちゃうのは管理職として全然ダメだと思っています。
副業や自主的な活動、地域に飛び出す活動を促進するほうが本業での頑張りに繋がるし、本人がイキイキとする、そういうことなんですよね。

後編につづく

【イベントのご案内】
二枚目の名刺 Common Room 64「2枚目の名刺は今なぜ求められているのか?~公務員と共に語る~」
■日時:2019年3月13日(水)19時00分~21時00分
■場所:パーソルテンプスタッフ株式会社(東京都渋谷区代々木2-1-1新宿マインズタワー18Fセミナールーム)https://www.tempstaff.co.jp/corporate/group/area-03/shinjuku-01.html
■参加費:3000円
■人数:先着30人

■イベントスケジュール
 ◆開場(18:30-19:00)
 ◆第1部:イントロダクション(19:00-19:40)
 ・オープニング:NPO法人 二枚目の名刺とは?
 ・公務員プロジェクトの紹介
 ◆第2部:トークセッション(19:40-20:10)
 ・2枚目の名刺がなぜ今求められているのか?
 ◆第3部:ブレスト(20:10-20:40)
 ご参加者とゲストと共に分科会としてチームに分かれてブレスト
 ◆第4部:シェア&ラップアップ(20:40-21:00)

現役公務員の方はもちろん、公務員でない方もお気軽にご参加ください!参加をご希望の方は、イベントページ(Peatix)からお申込ください。
主 催:NPO二枚目の名刺

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ライター

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カメラマン

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島田正樹
島田正樹
ライター
さいたま市役所に勤めながら、NPO法人二枚目の名刺「2枚目の名刺webマガジン」の編集者として活動。その他、地域コミュニティづくりの活動や、公務員のキャリアに関する活動などにも取り組む“公務員ポートフォリオワーカー”。『仕事の楽しさは自分でつくる! 公務員の働き方デザイン』(学陽書房)著者。ブログで日々情報発信中。https://note.com/shimada10708 https://magazine.nimaime.or.jp/shimadamasaki_interview/
金治 諒子
金治 諒子
編集者
公務員×2枚目の名刺プロジェクトメンバー。 母であり、妻であり、プライベートで社会活動に携わる姫路市職員。孤独な子育てを経験し最愛の子ども達の前で笑えない日々を過ごす中で、社会と自分の在り方に疑問を持ち、地域に飛び出すようになる。子ども達の世代まで持続可能な繁栄を願う。そのためにまずは、母自身が自分の人生に主体性を持って行動する。
SunagaYuichiro
SunagaYuichiro
カメラマン
フリーライター・フォトグラファー
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