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「さくらインターネットがパラレルキャリア制度を導入した理由」さくらインターネット・田中邦裕社長【後編】

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創業20周年を迎えた昨年から、新しい人事制度を導入しているさくらインターネット株式会社・田中邦裕社長へのインタビュー【後編】をお届けします。

世の中への変化が、事業スタイルと働き方を変える契機に>前編はこちら

パラレルキャリアを導入することで、人生の充足感が高まる

田中:パラレルキャリアの制度を導入することで、社員の人生の充足感は高まっていくと思います。個人のキャリアが会社に押し付けられるものではなく、自分で創り、感じられるものになるからです。この間、頼まれてコンピューターの修復をしたら、「1分で直ったんだから、1分ぶんの報酬でいいでしょ」と言われたんです。でも私は、“20年のキャリア+1分の時間”でやったわけですよね。それをたったこれだけの時間でやっているんだから…と、人月商売(一定のキャリアがあってこそ、生み出される価値)で報酬を得ることへの無理解があることを、身をもって知りました。やはり対価があってこそ、価値が生まれるように思います。一人ひとりのクリエイティビティがしっかりと対価になって、パラレルキャリアを創っていかないと、ただのボランティアになってしまう。

酒井:パラレルキャリアによって、一人ひとりのクリエイティビティがバリューになる。そのことを社員一人ひとりが体験して、その結果、本業にも還元されるものがある、というお考えなのでしょうか?

田中:本業の方も、おそらくレベルが上がってくるだろうと思います。弊社の例でいうと、子会社の手伝いに行った社員が、初めて本業以外の職場に入り、全く異なる環境があることを知った。そこで、本業ではそれほど役立つとは思っていなかった自分のスキルが強みになった、ということがありました。

酒井:越境学習ですね! NPO二枚目の名刺の共同研究パートナーでもある、法政大学の石山恒貴教授が提唱されています。

田中:まず手を付けたのは、社内の流動性だったんですが、社外にいくとなおさら学ぶことは多いでしょうね。自分が予想もしなかったことでお金をもらえると、すごく自信になるし、その人のキャリアにとってもプラスになると思います。例えば、プログラミングができる人がクラウドワークスに登録して20万稼ぐとか…。会社で給料を10万円上げるのは相当難しいことですが、空いた時間に特技を活かして収入を増やすことは、すごく合理的ですよね。

「働きがいのある会社ランキング」とか「働きやすい会社ランキング」が度々発表されますが、働きやすいランキングには日系企業が多いのに、働きがいのランキングになるとGoogleやYahoo!といった外資系の企業が入ってくるんですよ。つまり、日系企業の働きがいは少ないけれど、働きやすさはそこそこあって、給料が高いから辞めるわけにはいかないということになっているんです。

ただ、その高い給料は、一部の人に過剰に支払われているだけで、バランスを取るために若い人は安く雇われています。また、派遣や非正規雇用を年200~300万円代の給料で雇って搾取するという構造ができあがってしまっています。二分化しているんですよね。

IT企業は、そのあたりがセンターに寄っていて、平均給与は年500~600万円くらいです。日本人の平均年収が300万円代の中~後半なので、今はその1.5倍から2倍くらいもらえていることになります。大手企業の正社員の年収は1000万くらいですが、会社が「働きやすさ」をことさら強調するから、社員の流動性が低くなり、不都合を抱えて最終的には潰れてしまう。その結果、40~50代の人が急にリストラされるということになります。それだったら30代の頃から、パラレルキャリアで自分の得意分野を探し、やりがいがあって、働きに見合った報酬がもらえる仕事をした方が良いですよね。

社員を投資対象として見ることで、企業は成長する

酒井:伺っていると、早期に思いもよらない変化が起こるIT業界だからこそ、そこで起こっていること、その問題意識は日本の労働環境のなかでこれから起こる先行事例とも言えそうですね。

田中:20年前から必要だと言われていた、本質的な構造改革が行われないままここまできていたのが、限界に達したのだと思います。IT企業は比較的新しくて不都合が少ないので、改革しやすいんです。でも、大企業こそ本当は大胆な変革をしてこなければいけなかった

こうした改革に取り組んだ例として挙げられるのが、IBMですよね。1993年から2002年までCEOを務めたルイス・V・ガースナーが著書『巨象も踊る』に書いているように、一気に企業の“あり方”を変えたわけです。日本はそれをせずにやってきた。IBMは完全にサービスに移りました。Appleもそうです。スティーブ・ジョブスがiPodを創り、iTunesを出して、モノからサービスを売るスタイルにしてから、ものすごく業績が上がったわけですよね。1992~1993年くらいから、ものづくりよりもクリエイティビティを重視し、評価の仕方も変えていかなければならなかったのだと思います。IBMもAppleも、それがしっかりとできていた。

1989年には世界のランキングで、日本企業がほとんどを占め、“ジャパン アズ ナンバーワン”と言われたのが、今は1社しか入っていません。そういう状況を考えると、やっぱり経営者がごまかしてきたのではないかと感じます。最近、ベテラン経営者の方々と話していると、「成長戦略を考えるのが難しい」と仰います。「自分たちはコストダウンをしながら20年やってきたから、成長戦略と言っても、そもそも周りに考えられる人がいないのだ」と。効率化することは得意だけれど、コストをかけて成長への道筋を立てることに、経営者自身が慣れていないのです。

「これからはコストとして社員を見るのではなく、投資として見た方が良い」とよく言われますが、その言葉だけが踊っているような気がします。社員に投資しても、もしかしたら逃げられるかもしれない、という懸念があるからです。しかし、機械が壊れることがあるのと同じように、人間が去ることは当然あるわけですよね。私は、去るかもしれないから投資しないというのは違うと思うんです。投資した社員が成長する。その成長の結果として、売り上げが生まれるという実感を経営者の方が持つことで、日本はおそらく変わるだろうと思います。

酒井:そこで大事なことは何でしょうか?

田中:社長が安心して働ける環境も大事だと思います。社長が安心して働けてこそ、周りの人たちを安定させることができる。社長だって人間ですからね。私は創業社長ですから、辞めろと言われても、「まあええわ」という感じです。でも、“サラリーマン社長”と揶揄される方々は気の毒で、一人ひとりはすごく想いをお持ちなのに、それを発揮させてもらえないような不文律みたいなのがある。その割りを食うのが社員、そして経営者自身。ネガティブスパイラルですよね。

社員が幸せを感じられる企業でありたい

酒井:こうしてお話を聞いていると、やはり世代的な感覚もあるのかなと思います。

田中:ロスジェネ世代は大変です。私の友人たちは幸い大手企業に就職したので、40代以上の方々が作った、いわゆる古いパラダイムのなかで仕事をして、結婚して、子供を持って、幸せな家庭を築いています。一方で、非正規雇用のスパイラルからなかなか抜けられない人もいます。今の20~30代の人たちにそういうことが起きないようにしたいですね。加えて、その上の世代の人でも採用するというのが、ものすごく重要だと思うんです。年齢に関係なく、優秀な人はいるわけですから。

酒井:以前お会いした際に、「社員が、幸せを感じられる企業でありたい」と仰っていましたが、その想いとは?

田中:一つは、私自身の年齢が上がってきたことがあります(笑)。人生の折り返し地点に来て、自分も社員もやっぱり幸せに暮らしたほうがいいと思うようになりました。社員の結婚式に出席したり、子供が生まれたという報告を受けたりすると、なおさらそう感じますよね。平均給与が上がらないと、出生率も上がらないということを目の当たりにしていますし…。

経済的な理由で、結婚したくてもできないという人がいなくなればいいと思います。無理やり結婚したり、子供を産んだりする必要はありませんが、制約があるからしたくてもできないというのは不幸せだと思うんです。だから、働きやすさという部分で、不幸せをなくすことに貢献したいですね。純粋にそう思いますし、できる立場にいますから、それはやっていこうと考えています。その上で、社員の生きがいは、環境をつくることで啓発をしていこうと動いているところです。

酒井:ご自身も、どんどん外のコミュニティに出ていらっしゃいますよね。

田中:そうですね。数年前からコンピューターソフトウェア協会の理事、3年前から日本インターネットプロバイダー協会の理事を引き受けて、2年前から起業家甲子園と起業家万博のメンターとしてメンタリングをしているのですが、こうした環境の中で色んな人たちとの付き合いが生まれました。

その中の1人が、U-22プログラミング・コンテストの委員にご指名くださった(サイボウズ株式会社・社長の)青野慶久さんです。青野さんから「自由と寛容と働きやすさを高めていくことがすごく重要だ」というお話を聞き、だんだん感化されていきました。今、国の動きもそうなってきましたが、ただ自然にそうなったわけではなく、青野さんや様々な想いのある方々が国に働きかけてそうなったということです。偶然ではなく、震源地があるんですよね。その震源地から世の中が変わっていく中で、さらに私の考えが補強されたということはあると思います。

働くことが幸せの一部になって欲しい

酒井:最後に、田中社長が考える「幸せな働き方」について教えてください。

田中:一言で言うと、「幸せにつながる働き方」だと思っています。働くこと自体が幸せの一部になったらいいと思うんです。仕事が楽しいとか、仕事で知り合った人と結婚したとか、仕事仲間と休日に出かけるとか、仕事自体が楽しみを生むきっかけになるといいですよね。

「ワークライフバランス」というと、ワークとライフが別物だと認識する人が多いのですが、これらは別物ではなく、それぞれが密接に関わり合っていると思うんです。なので、プライベートに問題があると仕事に影響するし、仕事がうまくいっていないとプライベートにも影響してしまう。結局は一つの人格ですから。そうすると、働くこと自体が幸せであるべきだし、幸せを阻害するような働き方をするくらいなら、仕事を辞めたほうがいいですよね。

お金がないということは、幸福度には影響するけれど、不幸せとは違うものだと思います。私は、9年前に会社が傾いたときにすっからかんになりました。翌月会社が潰れるかもしれないということで、住民税は減らないのに給与を半減したので、手取りは新卒よりも低くなったんです。でも、そんな状況下でも不幸せだったわけではありません。

ただ、どこまで行っても幸せの一部分に仕事があると思うと、人生を豊かにするような働き方をしなければなりませんよね。そして、お金以外の切り口を見出していく努力もしなければならないのかもしれません。

【取材後記】
田中社長を一言で表現するとすれば“自然体”。188㎝と、身長がずば抜けて高いけれど、その視点も高い。やや関西弁なまりの飄々(ひょうひょう)とした語り口でお話を聞かせて頂くうちに、これからの日本の働き方も“改革”という肩肘を張ったものではなく、“自然体”で進められて行くことが、一人ひとりの幸福度を高めていくのではないか、と思いました。
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写真:布川航太
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酒井 章(TOO☆AKIRA)
酒井 章(TOO☆AKIRA)
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一枚目では、企業の人事部門で社員のキャリア形成支援を行い、NPO法人二枚目の名刺では“ミドル代表”として「TOO(隣のおせっかいおじさん)」役を務める。その他、ワークショップ・デザイナーや大学院非常勤講師(グローバルビジネス、キャリア)としての顔も持つ「超名刺ホルダー」。現在、企業人の幸せな働き方を実現する“性善説の人事”のあり方を探求している。
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