本業を辞めない!2枚目の名刺によって実感した“複業”する価値
「まわりの人に“とても変わったね”と言われました。行動が“見える”ようになったのだと思います」
宮崎将(みやざきまさるさん、以下宮崎さん)は、現在複数の名刺を持って活動をしている。パーソルプロセス&テクノロジー株式会社、NPO法人二枚目の名刺、テレワークコンサルタント、キャリアコンサルタント。
今のような働き方の起点になったのは、2年前モヤモヤとした焦燥期間があったからだという。活動へ踏み切ることになったきっかけと、移行する期間の葛藤、そのステップや現在地を聞く。
自分がこの場所にいて良いのだろうか?役割への疑問と葛藤
パーソルテンプスタッフ株式会社は行政機関の委託事業をおこなっており、地方就職したい若者と地域をつなぐ事業「LO活(Local+就活)」、都内企業のテレワーク導入推進を図るための「テレワーク推進センター」の開設など、様々な事業を担当していたのは、当時この場所で働いていた宮崎さんだ。
その時々の社会情勢に合わせた事業を国や自治体から受託し、企画提案から事業運営、精算対応まで取り組む。共に動かすステークホルダーや規模感、プロジェクトマネジメントというポジション、会社からの期待値など、責任とおもしろさが混在する仕事だ。
「自分がこの場所にいて良いのだろうか。この場所は私じゃなくてもいいんじゃないか。そう思って苦しかったです」
―――“人の人生や将来に関わりたい、支援したい”
そう思い、教育業界から人材業界に転職。年数を追うごとに、事業をマネジメントするポジションが確立され、自分自身が直接的にやりたいと願っていたことから遠ざかっている状況に迷いを感じていく。
2018年は、宮崎さんにとって分岐となる経験が2つ重なった。
1つは、社内での動き。社内ダブルジョブという制度で
在籍部署に他事業部から人が入り、共に活動をおこなう。自身が葛藤する業務に「やりたい!」と手を挙げ、生き生きと働く社員がいることを認識した。
もう1つは、社外への動き。NPOなどソーシャルな団体へ社員を越境させる仕組みを会社が提供しており、今度は自ら手を挙げ、困っている団体を支えるという経験を重ねた。背景が違うけれども能動的に動く意思がある他者と協働する楽しさを実感。0から1を組み立てる企画や場づくりそのものが、宮崎さんにとって本質的にやりたかった「人の生きる・”はたらく“を支援する」とも重なってきた。
自分の動きが会社から疎まれたり、会社から求められなくなったりしたら、もう辞めるのだろう…。
そんな気持ちを持っていたが、この2つの経験をもとに自ら「動く」という決断をし、2019年1月NPO法人二枚目の名刺の扉を叩き、組織を飛び出していく。
自分で関わり方を決める。求められる役割ではない「はたらき方」
「二枚目の名刺の中でこれをやりたい!という明確なものはなかったです。でも、内部の状況を見ると『できることがありそう、自分が寄与できそう』と、手を挙げられる場所がありました。仕事だとどうしても役割が先行してしまうのですが、ここではできる人・やりたい人がやる。自分でオーナーシップを決められる場所なんだと思いました」
2019年2月、公務員を対象としてCommonRoomが開催され「なぜ2枚目の名刺は求められているのか?」というテーマのもと、それぞれの立場の人と対話する場をサポートしたことで、自分と同じように求めている人たちの声を聞いた。
また、関西でサポートプロジェクトを開始できるよう準備が進められた時期でもあり、NPOや企業へのヒアリングに自ら手を挙げ、社会を変えようとする支援団体が抱える課題や企業の目線、プロジェクトの現場感を知り学ぶ機会となった。
同年、二枚目の名刺は東京都オリンピック・パラリンピック準備局の委託事業を受け入れることになり、そのプロジェクトに関わっていくことを決意した。
「プロジェクトの発起人である二枚目メンバーとのコミュニケーションがとても気持ちよかったです。
想い、伝え方、自分たちができること、できないことを明瞭に話せる。こういう人と事業をやりたいと思えました」
自治体からの受託事業は、自身がこれまで本業でやってきたこと。
この場所にいていいのか?という葛藤を抱えていた状況とは何が違ったのだろうか。
「同じ公共事業ですが、全く違う感覚で関わっていました。ビジネスからソーシャルに場所が変わり、人が変わった。NPOの人たちは事業に自分の想いを込めてやっているのだなと感じましたし、自分もやりたい!と思えました。そして本業で公共事業をやってきたからこそ、やれる!という実感も」
Tokyoパラスポーツ・サポートプロジェクト・事例発表会[ラグビーワールドカップに学ぶ、パラスポーツをブームからムーブメントに!]より
「自分で決めて動くことによって、誰かの役に立てるんだなと思えた。自己効力感を期待以上に感じた気がします」
自ら飛び込んだもう1つの所属する場所。
そこで得られた新たな視点と感覚が宮崎さんをさらに加速させていく。
本業を辞めない!“複業”するためにできること
“2枚目の名刺”を始めてそのおもしろさを経験していくことと並行し、本業はどうしていったのか。
複業申請は?ボランティアとして活動?報酬はどうする?課題はいくつもあった。
同僚には共感されないだろうな…と感じ、スタートした頃しばらくはこの状況を誰にも相談できなかったという。
「でも、動き始めてみて、誰にも後ろ指さされるようなことをしていないと思えたし、誰かに反応して欲しいと思いました。だから自分がやっていることを社内に見せようと考えました」
相談を持ちかけたのは人事部。会社として複(副)業を形成していくためにどうしたらいいかを相談したところ、組織としても制度を作ったものの活用できている事例は少ないという実情を共有してくれたり、上層部へのコミュニケーションフローを共に考えてくれたり。
会社外で活動している上司にも具体的な対応を相談しながら、1日8時間週5日フルタイム業務の時間外活動であること、日中に対応が入る場合は有休対応で行うことなどを決めて、2019年4月には月50時間で収入を得ながら複業をするという申請をおこなった。
社内でオープンにしていくことでどのような変化があったのだろうか。
「大きく3つの変化がありました。1つは早く帰るようになりましたね!これまではザ・管理職、という感じでいつも最後まで残っていました。でも、他に活動している場所があると時間内で仕事を区切るように動くことに。メンバーの見方が変わっていくことを感じました」
3つ目は本業の困りごとを解決する打ち手が増えたこと。社内で困ったことを二枚目の名刺で繋がった人にお願いすることもできるし、二枚目の名刺で繋がった人に“こういうことできそうな人いる?”と聞いてみることも」
本業を辞めずに外へ飛び出すこと。
そこには様々な葛藤と難しさがあるが、今いる場所を離れなかったからこそ、結果的に本業での自分に大きな変化が起きた。
個の輪郭が浮き彫りになることは、組織にも活きる
2020年1月から部署異動を求めパーソルプロセス&テクノロジー株式会社にて自ら起案した複業促進に関連する新規事業立ち上げを担当している。パーソルプロセス&テクノロジー株式会社、二枚目の名刺以外にも、新型コロナウイルスによってより一層求められているテレワーク推進事業のコンサルタントとしても時間・労力を傾け始めた。
また“人の人生や将来に関わりたい、支援したい”という想いの原点を直接仕事とするために、個人でキャリアコンサルタントとしても動き始める。
さらに、社内の複業促進コミュニティの事務局や越境学研究会メンバーなど、今もなお活動の幅を拡げている。
組織を飛び出したからこそ、「自分は今何ができるか、周囲から何が求められているか」に自覚的になった。
二枚目の名刺で「働く」をスタートさせてから、たった1年。
1年で起こったこれらの変化から、今はどんな気持ちで日々活動しているのだろう。
「複数の場所ではたらくことによって社内外の人と繋がっていきました。そうすると自分が答えを出せなくても『詳しい人を知っていますよ』と伝えられる。そんな風に自分も繋いでもらいました。
社内の人を仕事以外の側面で見たいと思えたし、今何に関心があるのか気になるし、自分もそう見られていく。個の輪郭がはっきりして、他者からもわかりやすくなった。それは個人の“人”同士がちゃんとつながる世界になっていくと思います」
個々人の「働く自分」と「働く以外の自分」を伝え合えることによって、それが個人活動の促進につながるだけではなく、仕事に活きたり、組織内コミュニケーションの豊かさに繋がったり、会社としての新しい価値提供になることもある。宮崎さんはそれを今実感しているようだ。
自分を活かす場所が複数ある。
それによって自分に訪れる変化と周りとの関係性のアップデート。
そのアップデートは、「働く人」のパーソナリティをよりクリアにして、個人と組織の関係性そのものを変えていくことになるのかもしれない。
ライター
編集者
カメラマン