【イベントレポ】複業フェス2017「あなたが望むワークスタイルを手に入れるためにできること
2017年5月14日(日)、東京都中央区月島のシェアアパートメント「月島荘」で開催された、複業をテーマにしたイベント「複業フェス」を全3回でレポート。
「複業フェス2017」レポートは全3回!
第1部:「働き方のパイオニア企業に訊く、なぜ今『副業解禁』なのか」
第2部:「『人生100年時代』を生き抜く新しい働き方とは?」
第3部:「会社を辞めずにやりたいことにチャレンジする “複業家” の生き様とは」
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第3部のテーマは「会社を辞めずにやりたいことにチャレンジする “複業家” の生き様とは」。企業に勤務しながら、社外で「パラレルキャリア」を実践する3人が登壇し、副業の中身や、複業を始めるに至った経緯を紹介した。組織の垣根を超えることの価値について考えさせられる内容だ。
1)複業家はどんなパラレルキャリアを行なっているのか?
ソニー株式会社に勤めながら、自身が代表を務める株式会社ハピキラFACTORYを経営する正能茉優さん。1991年生まれの25歳だ。
ハピキラは“「地方×女の子」ビジネスの第一人者として、「かわいい」を入り口に、地方を元気にしていく会社”で、“地方にある魅力的な商材をかわいらしくプロデュースし、発信していくことで、女の子たちが地方に興味を持つきっかけをつくろうと活動をしている”(同社HPより抜粋)そうだ。
2013年、慶應大学総合政策学部在学中に友人の山本峰華さんと創業。いわゆる学生起業家で、「女子大生なのに社長」という立ち位置で事業を展開した。卒業後は「会社員なのに社長」という立ち位置でハピキラを続けている。
他の登壇者と違うのは、「会社員をやりながら、自分の仕事も始めた」のではなく、「自分の仕事をやりながら、会社員も始めた」という経緯であることだ。曰く、「ファーストワンもナンバーワンも難しい。ならばオンリーワン戦略をとった」というが、「会社員としての収入があるから、ハピキラが余裕をもってできている」とも語る。
千葉智之さんは、株式会社リクルートライフスタイルに勤務しながら文筆活動などを行う複業家だ。
新卒で大手ゼネコンの鹿島建設に就職し、31歳でリクルートに転職。ホットペッパービューティーの事業に携わってきた。その一方で、東京転勤を機に人脈が広がり転職への道が拓けた経験を基にして、『出逢いの大学』(2008年、東洋経済新報社)など3冊のビジネス書を執筆している。
3人目のゲストは九鬼豊広さん。医療・介護系の情報サービス企業に勤務しながら、ファイナンシャルプランニングを副業としている。
大学卒業後、大手保険会社に入社した九鬼さん。サラリーマンとしてのキャリアをスタートさせたが、入社した年の5月にはすでに仕事に絶望していたそうだ。会社人間として生きている上司を見ながら、「上司のようにはなりたくない」と思っていたという。会社勤めをしながら独学で勉強し、ファイナンシャルプランナーの資格を取った。
2)複業を始めたことで、本業にどんな影響があったのか
九鬼さんは「時間管理に対する意識が高まった」という。自分への投資として勉強する時間を確保するために、早く出社し、早く退社するよう努力したそうだ。朝の6時出社して、17時に帰る。そんなライフスタイルを続けていたという。
千葉さんは、「人脈がひろがった」という。リクルートは思ったよりも会社内完結型の組織で、社外とのつながりのあるタイプの人が少なかった。同じ会社の中ではどうしても付き合う人の幅が狭まる。副業を通して人脈が広がったことは本業にもとてもいい影響を与えているそうだ。
ハピキラを先に経営していて、後から会社勤めを始めた正能さんは「中長期的な目線でキャリアを組める」ことがメリットだと語る。やりたいことはあるけれど、そこで収入を上げて生活していくとなると重いプレッシャーがのしかかって辛くなる。
そこで、企業の社員としての仕事で収入を得つつ、5年後の自分のための投資だと思って利潤が上がらなくても自分の事業ができる環境が価値だそうだ。また、ソニーの仕事でもハピキラの人脈が生きている。「どちらが本業でどちらが副業かとかはありません。正能茉優の人生ですから」と堂々と語る。
(株式会社ハピキラFACTORY 代表取締役/ソニー株式会社 新規事業開発担当の正能茉優氏)
複業を行うメリットはある。それでは、デメリットや失敗体験はあるのだろうか?
千葉さんは「失敗と思っていることはないが、副業をやればやるほど本業で結果を出さないといけない」と語る。
因果関係があるにしろないにしろ、副業を実践する社員の成績が良くないと「副業をやっているからだろう」と周囲からは評価される。やりたいことをやるためにも、本業でさらにいい結果を出す。その意味でも時間や効率性を高めるようになったという。
つぶれないよう「本業:副業=8:2」でバランスをとってきたそうで、最大でも副業は2割程度に抑えることがポイントだ。
3)本業が忙しい時でも複業を続けるコツは?
バランスをとって続けられればいいが、本業のポジションや時期によってはなかなかそうもいかないもの。3人はどのように時間をやりくりしているのだろうか。
九鬼さんは「一度振り切って本業に走ってもいいと思う」と語る。九鬼さん自身、本業の方を10にした時期もあった。そんな時期でも、小さく副業を続けていた。「やってきたことを諦めないことが重要です。対面での進行が難しければLINEやメールだけでも続けていました」。
千葉さんは「忙しくてやるのが苦しいことは選ばない」と語る。千葉さんが実践していたのはごく単純なこと。その日やることを紙に書いて、時間を割り当て、終わったら線を引く。本業の仕事だけでなくその日やることを全て書く。平日だけではなく土日もだ。もちろん予定通りにはいかない。7?8割できたら上出来。しかし、書かなければ1割できるかどうかだそうだ。
また、あえてプレッシャーをかけることも有効だという。WEBメディアで連載を書いていた時には、週に一回の連載を2年間書き続けた。それは、書かなければいけない状況にあえて自分を追い込んだからこそ続けられたことだという。
(株式会社リクルートライフスタイル ホットペッパービューティーアカデミー アカデミー長で作家の千葉智之氏)
正能さんは、Googleカレンダーを使い、スケジュール管理を徹底しているそうだ。まず、家族の時間はブロック。その上で、ソニー3割・ハピキラ3割・彼氏7%・昔の友達5%・今の友達5%と時間を配分していく。
残業の多いサラリーマンは、やることを定めずにダラダラと仕事をしてしまいがちだが、複業家は時間に対する意識が高く、きっちり時間管理ができることが条件となっているようだ。日々密度の高い時間を送っているのだと想像される。
4)副業のはじめの一歩はどうすれば?
最後に、これから複業をはじめようと考えている会場の参加者に3人なりのアドバイスがあった。
「ゴールを決めること」だと九鬼さんは言う。複業をするかしないかモヤモヤするのは手段のレベルで悩んでいること。なかなか前に進まないのは期限とゴールを決めないからだ。それが決まれば、副業でやるとか本業でやるとか、あるいは転職するとか独立するとか手段が決まってくる。「何のために複業をするのか見つめ直してはどうでしょうか」。
(株式会社muljob 代表取締役社長 / 医療・介護系事業会社勤務の九鬼豊広氏)
「必要がなければ、初めの一歩を踏む必要はない。大事なのは自分のやりたいことをどう見つけるかということです」と語るのは千葉さんだ。
ゼネコンに勤めていた時は休日に仕事の資料を読むことはなかった。しかし、リクルートに転職してからは土日でも喜んで仕事ができている。それは自分のやりたい仕事だったからだ。
「土日に喜んでやっている人間に、プライベートと仕事を分けているような人間は絶対にかなわない」と断言する千葉さんに他の登壇者も共感した様子。
「やりたいことが見つかっていない人も多いでしょう。でも、今までの20年30年の人生の中に埋まっていますよ。誰にでも好きなことの兆しは埋まっている」とアドバイスした。
やりたいことがみつかったら、「世の中を動かしている決定権のある人と仲良くなること」だと正能さんは語る。学生時代から企業経営者の出待ちをしてハピキラのアイデアを語ってきたという正能さん。「現場の人間よりも役員や社長と直接つながることが、新しい働き方を実現するコツかもしれません」。
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取材を終えて、「必要がなければ、(複業の)初めの一歩を踏む必要はない。大事なのは自分のやりたいことをどう見つけるかということです」という千葉さんの言葉がとても印象強く残っている。ひとりひとりのやりたいことが見つかっている社会。それこそが今の日本が目指すべき方向なのかもしれない。
とはいえ、「複業」という働き方がメジャーになることの重要性は確かに存在するだろう。今回のイベントを主催した株式会社HARESの西村創一朗代表は次のように語る。
「国もパラレルキャリアを推奨して、副業の容認が企業にも広まっています。しかし、未経験なことに対して多くの人が及び腰です。まずはメンタルブロックを外すことが重要です。ネガティブなイメージで語られがちな“副業”を可能性に溢れる“複業”として再定義していきたいです」。
(株式会社HARES代表の西村創一朗氏)
こと働き方については、手段が思考を縛っているという見方もできるだろう。働き方という手段がもっと柔軟になれば、思考もより柔軟になる。できないと思っていたことができるかもしれないし、やってはならないと思っていたことが新たな道になるかもしれない。
一度きりしかない人生。どう生きるのかはあなた次第だ。
おわり
ライター
編集者
カメラマン