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【HRカンファレンスレポ】枠を超えたら世界が変わる〜ギャップジャパンが体験した越境学習の効果とは〜

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「NPOサポートプロジェクト」を実施したいという企業からのオファーが増えている。社員がサポートプロジェクトに参加することが、人材育成の観点で効果があると認知されつつあるからこその流れだといえるだろう。社員が2枚目の名刺を持つことで、企業や社員自身にもたらすメリットは何だろうか――。

若手社員たちは“組織の枠を超える”意義に気づいている

2017年5月19日(金)、大手町サンケイプラザで行われた、日本の人事部「HRカンファレンス‐春‐2017」の特別セッション「新しい働き方が社員のキャリアを豊かに構築する~「2枚目の名刺」の人材育成効果とは~」。

NPO二枚目の名刺代表 廣優樹、サポートプロジェクトを実施するギャップジャパン株式会社 人事部 シニア・ディレクターの志水静香氏、越境学習やキャリアを研究領域とする法政大学大学院 石山恒貴教授の3人がパネリストとして登壇した。このセッションの模様を全3回のレポートでお届けする。

「2枚目の名刺」の人材育成効果がわかる!
「HRカンファレンス‐春‐2017」レポートは全3回

-1- 枠を超えたら世界が変わる~ギャップジャパンが体験した越境学習の効果とは~
-2- 企業が「副業・兼業」「パラレルキャリア」を推進する意義やメリット
-3- パラレルキャリアを推進するための課題と企業の乗り越え方

(写真左から:石山恒貴教授、志水静香氏、廣)

会場に集まったのは、企業の人事担当者など、社員の採用、育成、マネジメントに関わる人が大半だ。2枚目の名刺を持つことに対する関心が多くの企業で高まっていることは、この特別セッションが参加申込みスタートから間もなく満席となったことからも伺える。

セッションの序盤には、廣が2枚目の名刺を持つことの意義やサポートプロジェクトの流れを説明。社会課題にネイティブで、社内に閉塞感を感じ、社会を創ることへの自由度が高い若手社員こそ、組織の枠を超えていく欲求やその意義を感じていると伝えた。

サポートプロジェクトって何?
#1:二枚目の名刺Common Roomに行ってみた!
#2:「NPOサポートプロジェクト」で社会人が学んだこと
#3:サポートプロジェクト中間報告会レポ

廣:越境し、2枚目の名刺を持つことの意義は、社会貢献だけに留まりません。従来のボランティアと違い、自分の成長や本業に持ち帰るものがあると意識しながら参加する人が増えていると感じます。

NPO二枚目の名刺が実施するサポートプロジェクトには、次のような仕掛けがあり、これが社会人の成長や本業への還元につながっています。

仕掛け1:自らが共感する活動に手をあげ、NPOのリーダーと協働
仕掛け2:正解のない社会課題への挑戦。失敗し、もがく経験
仕掛け3:座学でもなく、言いっぱなしでもなく、実行するまで手を動かす本気の経験
仕掛け4:一度枠を超えた人間は、社内でも躊躇なくこれまでの枠を超える

プロジェクトに参加した社員の多くが昇進!

続いて志水氏が「ワクを超えたら「世界」が変わる~コンフォートゾーンから飛び出して見えたもの~」というタイトルで、2016年にサポートプロジェクトを導入した経緯、そこで企業として得たものを伝えた。ギャップジャパンとしてはサポートプロジェクトへの参加を「体験型リーダーシッププログラム」として捉えているとのこと。

志水:いわゆる座学型研修プログラムは人材育成に10%しか効果がないことがわかっています。スキルを磨くトレーニングはたくさんありますが、私からするとやや物足りないと感じていました。トレーニング終了後、身につけたスキルを自分の仕事に生かせているのか、自分自身の行動の変化に本当に効いているのかが疑問だったのです。

2016年冒頭、志水氏はギャップジャパンを「“ラーニングオーガニゼーション”=“学び続ける”組織にしたい!」と宣言。その第一歩として「カンフォタブル・ゾーン(居心地の良い環境)から飛び出して自分にとって居心地が悪いところで新しいことを始めましょう」と社員たちに呼びかけた。それを実行するために導入されたのが、「体験型リーダーシッププログラム」としてのサポートプロジェクトだ。

実施スケジュールは以下のとおり

2016年6月:「パラレルキャリアとは?」を考える説明会を開催
       サポートプロジェクトの紹介と公募

9月:NPO団体とのマッチングセッション(NPO二枚目の名刺主催のCommonRoom)

10月:キックオフ

11月:中間報告会

2017年1月:最終報告会

プロジェクトへの参加者は社内で公募し、自ら参加の意思を示した社員だけが実施している。人事部社員と「なぜ参加したいのか?」「自分自身の何を変えたいのか?」「このプロジェクトから何を持ち帰りたいのか?」を確認する1-1のミーティングを行ったうえでスタートしたのもポイントだ。

志水:成功の要因のひとつだと思っているのが、プロジェクト実施期間中、ギャップ内の参加者が集い、自分の内面に向き合う時間を毎月必ず確保したこと。それぞれのプロジェクトが今どのような状態で、どのような課題を抱えており、どのようなことをしているのかをシェアするとともに、そこで自分は何ができるのか、チームとしてどうしていくのかを深く議論してもらいました。人事部の役割はあくまでファシリテーター。プロジェクトの中での個人の学びや気づきを参加メンバー主体で確認し、他のメンバーと率直に共有できるようなオープンな時間を持ちました。

終了後の調査によると、参加者の満足度は5段階中4.6というほかの研修プログラムでは見られなかった高さであった。

志水:参加していたメンバーの顔や発言が、プロジェクトを行った4カ月の間に目に見えて変わっていきました。この春、参加メンバーの多くが昇進したことからも、一定の成果を感じています。その他のメンバーについても、「コミュニケーションの方法やリーダーシップスタイルが変わった」という声が現場で働く仲間や上司から聞こえてきています。

最終報告会を終えた2月、社内外の人に向けた「プロジェクト報告会」も行われたという。

志水:ギャップジャパンは、素地として「社会をよりよくしたい」「仕事を通じてコミュニティに還元していきたい」という気持ちを持っている社員が多いので、今回のプロジェクトの内容を社内全体で共有したいと思いました。また組織の枠を超えて他社さんにもこうした取り組みやその結果をシェアすることで、参加してみたい、コラボレーションしたいという企業が続いてくれればという思いがあり、報告会を行いました。

志水氏ら人事チームは、このプログラムの意義と効果を社内外にもっと広く認知してもらうために動画を制作したそうだ。

動画>GAP x 二枚目の名刺「NPOサポートプロジェクト」

参加したメンバーを直接知らない人にも彼らの姿勢や意気込みが伝わってくる素晴らしい動画だ。見ていた志水氏が目をうるませていたのが印象的だった。

「パラレルキャリア=能力の高い人、やる気がある人だけのもの」というイメージも

法政大学大学院の石山教授は「2枚目の名刺の人材育成効果とは?」をテーマに、「パラレルキャリア」を解説し、現在の論点を紹介。「2枚目の名刺」もその範疇とする「パラレルキャリア」という言葉は、マネジメント論で有名なP.F.ドラッカーが提唱したものだという。

石山:パラレルキャリアというとフルタイムでの労働“プラス”社会活動、“プラス”社会人大学院などでの学びなどがイメージされがちです。「ものすごくやる気のある人、すごい人にしかできないことでしょ?」と言われたりしますが、そうではありません。本業がフルタイムではなく、週3日正社員で働き、他の時間は趣味の活動などをする人や、週5時間程度は請負の仕事をして、残りの時間は保育サークルをやったりプロボノでボランティアをしたりすることもパラレルキャリアに含まれます。パラレルキャリアと一口に言っても、さまざまな働き方があるのです」。

石山氏はパラレルキャリアの学習効果として、次の4つを紹介した。

1. シェアド・リーダーシップ(垂直型ではない)
2. 多様性と曖昧さに慣れる
3. ゼロベースで実験を繰り返す、失敗を歓迎する(デザイン思考)
4. 自分の暗黙の前提を常に見直す(視野の拡大)

石山:会社では上司がリーダーだと決まっていますが、サポートプロジェクトのような場にはリーダーがおらず、一人ひとりが考えて動かなければなりません。自分が当たり前のように使っている仕事上の用語が外部では通じないことに気づくこともあるでしょう。

パラレルキャリア推進が進む一方、壁の前で立ち尽くす企業も

今、さまざまな企業で「パラレルキャリア」への取り組みが進んでいる。

ロート製薬「社外チャレンジワーク」
石山:ロート製薬の副業解禁はトップダウンで決めたことではなく、社員のプロジェクトチームからあがってきたという点がポイントです。

副業を解禁!? ロート製薬に聞く人事戦略の舞台裏

さくらインターネット「パラレルキャリア推進」
石山:働き方改革とセットでやられているものです。実家が農業をしていて田植えや稲刈りの時期は手伝いたいという社員に、実家にいながらテレワークで仕事をすることが認められています。いわば空間もパラレルな二拠点パラレルが実現できています。

「さくらインターネットがパラレルキャリア制度を導入した理由」田中邦裕社長インタビュー

現在のパラレルキャリアへの注目度の高まりを受けて、経済産業省や中小企業庁でも兼業・副業を推奨する流れが生まれている。中小企業庁からは「兼業・副業を通じた創業・新事業創出に関する調査事業研究会提言~ パラレルキャリア・ジャパンを目指して~」という報告書も出されているほどだ。

石山:ただ、一般企業が諸手を挙げてこの流れに賛同しているかというと、そうではありません。ある調査では8割の企業が社員の兼業・副業に関して「メリットを見いだせない」と回答していた例もあります。企業からすると「本業に支障が出るのでは?」「情報漏洩しないか?」「安全配慮義務は?」など疑問が多いことも事実です。

一方で、厚生労働省のモデル就業規則では副業・兼業が原則禁止になっているため、これに従って、明確な理由もなく副業・兼業を禁止にしている企業も多い。

石山:多くの課題は工夫次第で解決することができます。ギャップジャパンのように乗り越えている企業もあります。ただ、「最初の一歩に何をしていいのかわからない」という声はやはり根強く、社員側が「会社の労働時間だけでいっぱいいっぱいで副業、兼業する余裕がない」という場合もあります。これらの課題をどう乗り越えていくかが焦点ですね。

企業が社員のパラレルキャリアを推進していくための課題は、どう乗り越えていけばいいのだろうか。廣、志水氏、石山教授がそれぞれの経験や研究から、人事担当者の疑問に答えていく。

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「-2-企業が「副業・兼業」「パラレルキャリア」を推進する意義やメリット」へつづく

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古川 はる香
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フリーライター。女性誌や育児誌を中心に雑誌、書籍、WEBで執筆。
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